麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』読了。
麻布競馬場さんの単著二作目ですね。
デビュー作である『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』は短編集でしたが、本作はどちらかというともう少し長めの作品が4つ。
いずれも主人公こそ違うものの、脇役として慶應のビジコンサークル出身でありつつもサイバーエージェントの総務部に進んだ「沼田くん」が登場し、彼の人生を周りの人間から眺めるという構成になっています。
帯には「Z世代の取扱説明書」とありますが、無論本当に取説になるのかどうかは未知数です。
沼田くんの生き方自体は、サークルでの挫折を機にねじ曲がってしまったところに端を発しているようなので、Z世代だからというわけでも無さそうですしね。
世代に関わらず、トラウマを経て曲がってしまうというか本気出さない系になる人はおります。
とはいえ、意識高い系の人々の描写が続く作品でありながら、第1話こそビジコンサークルでの起業するしない話がテーマになっているものの、それ以降はありきたりなJTCになりつつあるかつてのベンチャー企業だったり、動物愛護活動だったり、老舗銭湯だったりが舞台で、次第にギラギラ感が薄れていくのがこの世代を扱ったものとしての本作の特徴かもしれません。
ギラギラ感というよりはキラキラ感。
そしてそのキラキラ感の背景にあるのは、いかに自分たちが正しくあるべきか、みたいなところでの悩みで、なるほどこの世代の実存主義的な問いはこういう形になっているのだな、と。
なんとなくSFC的でNPO的です。
でも、こういった方面を突き詰めたのが今話題の福祉系の起業家群で、それらがもてはやされるのならば、この先あんまり経済成長も無さそうだな、とも。
彼らより少し上の世代の成功例、ITでの起業の行き着いた先がソーシャルゲームでのガチャだったり金融詐欺広告だったりなのも、なんだかなぁ、という感想が出てしまいますが、それらは少なくとも自分たちで利益をあげているわけです。
他方、正しさを軸に自らの実存を賭けた活動が、いくらキラキラしていても原資が公金で、しかも自分たちがキラキラすることが裏というかむしろ主目的なので実体を伴っていない、みたいなのを見ると顔をしかめてしまいます。
あげく単なる利益誘導スキームに取り込まれています、みたいなのは目も当てられない。
話がズレました。
なんというか、本書に書かれていないところまでも深読みして心暗くなったりするので、要注意な一冊。