プライム・ビデオで映画『桐島、部活やめるってよ』視聴。
実をいうと朝井さんの原作は途中で投げ出した口でして…。
ありもしなかった青春時代の心のキズが疼くと言いますか、なかなかしんどくて読破できなかったのでした。
そもそも自分は高校に行ってないので分からないことも多いのです。
中学時代の記憶から類推するしかなかったりしますからね。
難儀はします。
それを承知で手にとっては見たもののやはり断念したという。
でも、本作は映画なのでじっと見ていれば時は流れていくし、同じ場面を様々な視点から再生してくれるので理解も進むのでした。
というか、原作と結構違うような…。
いや、うまく料理した、というべきでしょうか。
登場人物が多く、スクールカーストの上から下まで揃っているので、観客も皆誰かしらには感情移入できるだろうという仕掛けは、映画の題材には最適。
それに12年前とはいえ、贅沢な俳優陣です。
今このメンツで一本撮れるかと言ったら難しいでしょうね。
そもそも東出くんは起用できなさそうですけど。
原作は、章ごとに軸となる生徒が変わり、特に誰かが作品を通しての主人公ということもなかったように思えますが、本作では主人公としてカーストの下層と見なされていた映画部の前田(神木隆之介)くんを置いたのが素晴らしいですね。
無論、神木くんであるからには、単にクラスの中の目立たないだけの生徒であるはずもありません。
最後には映画内映画での台詞を通して、我々に生き方を提示してくれるのでした。
出演者たる後輩部員に吐かせる「この世界で生きていくしかない」というセリフは、映画内的には「桐島無き世界を生きろ」というものでしょう。
では、観客的にはどうでしょうか。
本作を通してずっと描かれるのは、桐島以外はモブである、という事実です。
そして直接は描かれないまでも、その桐島でさえ何かしらの挫折なりきっかけがあって、お立ち台からは降りたことが伺えます。
誰しもがほとんどいずれはモブとして生きていかなくてはならなくなるわけだけれども、じゃあどうする?と。
カーストの上位ではあっても、桐島に比べたらモブでしかないことを自覚しているヒロト(東出昌大)は、それゆえになにかに打ち込むこともできない日々。
桐島がいなくなったことで、彼との関係性だけで意味がありえたような生活も一変。
急に、モブだけれどもなにかに熱中している他生徒を意識するようになります。
3年の秋を過ぎてもドラフトが終わるまでは練習を続けたいという野球部のキャプテンに衝撃を受け、さらには映画界での将来の夢を監督神木くんに訊ねるも、プロは無理かな、という回答に打ちのめされますが、その後については特に描かれません。
無論、そんな終わり方が許されるのは、主人公でないからということもあるし、それよりも神木くんがフォーカスされているので、そっちで理解してね、という構図だからということもあります。
映画の終盤、カースト上位の面々が映画部の撮影に意図せず乱入してしまったことから、東出くんと神木くんの邂逅が見られます。
互いが互いに8ミリカメラを向け、相手のことを聞き出そうとします。
神木くんは、映画への熱量はあるものの、プロは無理そうだとの率直な思いを自ら発見しつつも笑顔になり、一方の東出くんは、何も熱を傾けることのできない自分を吐露することもできず涙を流す。
つまり、桐島との距離感がアイデンティティになっていた上層の面々が、その不在によりあたふたしている一方で、映画という自身の軸を持っている神木くんは、たとえそれがプロレベルでないとしても、その情熱を通して世界をうまく生きている。
モブはモブとしてどう生きていけるのか。
その一つの答えを我々に提示してくれたのでした。
それにしても、カーストの上位であればあるほどそれまで桐島の影響圏下にあったわけで、それ故にその突然の不在に右往左往してしまうという図式を、いくらか当事者というよりはその蚊帳の外である目線を通してそのおかしさを見せるのがうまい。
一方、同時進行で、下位にあった神木くんにとっては、その不在よりも撮りたい映画の邪魔をしてくる映画部の顧問教師のほうが問題で、それはとりも直さず彼自身の映画に対する熱量が高いことに由来しているわけですね。
そしてそれは、ありがちな青春ストーリーのように、いずれ映画監督として大成した主人公による過去の振り返りみたいな形式でもなく、単に好きだからやっている、と。
あと、東出くんに「将来の夢は?映画監督?女優と結婚?」とか言わせてますが、後の歴史を知っている我々からすると不意打ちのツボです。
そんな東出くんと本作でキスシーンのあった松岡茉優もこの度めでたく結婚。
まずはおめでとうございます。
U-NEXT、Huluでも観られます。