山田昌弘『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』読了。
副題は「結婚・出産が回避される本当の原因」というものです。
2020年のコロナ禍真っ最中のときに書かれた本ですが、最近になってX(旧ツイッター)のTLで話題になっていたので手に取りました。
2020年というのは何もかもコロナで押し流されてしまっていて、落ち着いて議論すべきこともすべて後景化してしまったようなところがあり、こういう長期的に必要だった視座もその当時はあまり取り上げられることがなかったのかもしれませんね。
とはいえ、これまで山田先生の著書を読んだことがあったり、新聞などでの発言を知っている人からすると、書かれていることに然程意外感はないかもしれません。
それでも『パラサイト・シングルの時代』からもう四半世紀経ってしまったわけで、その間我々ロスジェネのど真ん中世代は、結婚適齢期どころか出産できる年齢も終わろうとしています。
山田先生はその間ずっと、政治家や官僚の方々に重宝され、色々と意見も求められてきたものの、それらは政策にあまり反映されずにここまで来てしまったということですね。
むしろ、日本を反面教師とすべく東アジアなど各国で山田先生の議論が参考にされてきたというのは皮肉な話です。
本書の帯には「もっと早く、せめて団塊ジュニアが結婚、出産期に入るまでに手が打たれていれば…」とありますが、これは編集者の方の心の叫びでしょうか。
しかしながら本書の結論を先取りするならば、「少子化対策」の根幹は、若者に自分たちが子どもを持ったとしても将来にわたって中流生活を送ることができる、と確信を持たせることにあるとのことです。
そうであるならば、そんな期待に働きかける施策を、政策で行うのは難しい話ではありました。
いや、正確には小手先の施策で出生率が上向くほど簡単ではなかった、というべきでしょうか。
本書の終わりにも触れられている通り、結婚・出産適齢期の人々が将来にわたって中流生活を送れるという期待を持つためには、経済が上向いていなければなりません。
だとするならば適齢期の人々が、非正規雇用などの理由で親世代よりも収入が低いことが見込まれてきたこの失われた30年、結婚どころか男女交際すら避けるのも道理なのでした。
本書では、日本の中で少子化が進んでいない沖縄の事例を紐解き、中流生活への幻想が端からなかったことが出生率の観点ではプラスだったことが挙げられています。
しかし、それを拡張した議論、すなわち格差社会が伸展し中流幻想を持たない層が増えれば、その子らの世代は没落懸念を持つこともないので結婚・出産にも躊躇しないだろう、という世界線での出生率回復を、山田先生は「望ましくないシナリオ」としています。
でも、地方都市でのマイルドヤンキーの子沢山、みたいな図は、それはそれでありなのではないでしょうか。
問題はそのマイヤンの収入源で、看護職・介護職がメインなら、国の発展も無さそうです。
せっかくの円安を観光業だけに恩恵を被らせる必要はありません。
もう少し真面目に製造業の未来を考えても良さそうですよね。
そのために必要な政策は、Fラン大学フェミ学部も含めた授業料無償化とかではなく、工業高校や高専の充実とかでしょうけれども。
腰を落ち着けて、半導体技術者をゼロから作り出すくらいのカリキュラムがあって然るべきです。
まあ、そんなことはすでに考えられているようで、熊本高専とか豊橋技術科学大の話とか見ると、何となくその方向に向かいつつあるような昨今ではあります。
とまれ2020年時点での山田先生のため息が聞こえてきそうな一冊。