『本当に欲しかったものは、もう』読了。
副題は「Twitter文学アンソロジー」とあり、著者として「麻布競馬場、霞が関バイオレット、かとうゆうか、木爾チレン、新庄耕、外山薫、豊洲銀行網走支店、pho、窓際三等兵、山下素童」と、Twitterで見かけたことのある面々の名が並んでいます。
彼らのすべてをフォローしているわけではありませんが、それでも載っている話のほとんどはすでに読んだことのあるものでした。
影響力の大きかった「作品」が取り上げられている、というべきか、自分のTLがかなり偏っている、というべきか…。
「Twitter文学アンソロジー」というくらいですから、これが今のTwitterの生み出した文学の到達点なのですね。
でも、結構もうみんな飽きてしまったのでしょうか。
本日(2023年7月15日)時点で、Amazonレビューは3件。
4月発売の本としては寂しい限り。
2022年9月出版の『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』が181件で、本年1月出版の『息の詰まるようなこの場所で』が48件であるのに比べてちょっと物足りない。
というか、ブームが去りつつある感じでしょうか。
『この部屋から~』のときは、レビュー欄で自作品を開陳するのが流行したりしましたが、そういうのもなく…。
本書の数少ないレビューの中には、「女性のルッキズムを批判している作品なのに男性を「チー牛」呼ばわりしていてダブスタだ」みたいな、少し的が外れているようなものも見られます。
いや、個人的にはあの作品は別にルッキズムは批判してないと思うのですけれども…。
強いて言うなら、顔の良い人間も悪い人間も一様に消費されていく滑稽さでしょうか。
それでも珍しくハッピーエンドで終わる作品で、自分としては本書の中で最も好きな作品でした。
歳を取れば皆、可愛かった人もそうでなかった人もチヤホヤはされなくなるわけで、稼ぎの良い男の妻として専業主婦の座を勝ち取る人生を選ばなかったのであれば、どこかの時点で中身で勝負する人生に転ずるわけです。
学生時代早々にその覚悟を決めた「アリ」と、社会人になってからそれを覚悟した「キリギリス」が最後に再会し、ともにベンチャーで役員をやることになるであろうエンディング。
いいですね。
若さと美貌ゆえにチヤホヤされているだけなのに、それが自分の実力だと勘違いしていた子が、それに気付かされ転落する例も(、気付かぬまま転落する例も)、そしてそこから這い上がってくる例も、サラリーマン時代には見ました。
実際にはチヤホヤされる側には同性からのやっかみもあるし、チヤホヤされない側には異性からの冷酷な態度もあるし、そんな単純な話ではないですが、いずれは中身で勝負せざるを得なくなるのは事実です。
まあ、そこからですよね。
自分の妻は、夫である自分が贔屓目に見てもチヤホヤされない側の人間で、でも、素晴らしい両親に育てられたからなのか、そのことで性格が歪むということもなく成長した口です。
でも、世の中で可愛い人がどれだけ優遇されるのか、ということをある時点まで知ること無く生きてきた人でした。
あるとき会社で後輩(本人も美人だがよく似た妹がモデルでサッカー日本代表の選手と結婚したレベル)が風邪を引いたとき、周りの男性陣がとても気を使ってくれるのを見て、自分が風邪で倒れそうになったときにはまったくそんな対応はとってもらえなかったことを思い出し、初めて世の摂理を知り、その扱いの違いに憤ったそうです。
でも、元々美貌でどうにかしてきた側でないので、加齢とともに周りからの扱いが変わるなんてこともなかったようですね。
チヤホヤされる側だった人間が、30過ぎてそれを失うなかで気付かされるよりは数倍マシなのではなかろうかと。
でも、別に総合職と一般職とに採用を分けているわけでもない外資系の金融機関でもそういうものなのですね。
まあ、仕方ないですが。
話がズレました。
Twitter文学の話でした。
基本的にはTwitterに集う面々による彼ら自身の最大公約数的な人生が紡がれているわけですが、世間様から見たらエリートな我々にだって、人並みの苦悩はあるんだぜ、みたいなところが当初はウケていたのだろうと思います。
でも、それ以外の層に共感は広がらず、それゆえ早々に飽きられ始めているのかな、と。
内輪ウケというものは外には広がりませんからね。
それ以外の層、タワマンにすら届かないダウナーミドル層からしたら、よくいるTwitter民の苦悩なんて、苦悩なのにマウント入ってる?みたいな感覚かと思います。
なんとなく感じたのはあれです。
80年代のギョーカイ人が内輪で作ったテレビ番組のノリ。
とんねるずとかが顕著でしたが。
それを笑えるのが東京ネイティブの証、みたいな。
木梨の自転車屋ネタとか、当初は東京ネイティブのマウントというよりは、高卒の下町民の大卒エリートに対する当てつけみたいなところがあった、とかいう分析を聞いたことはありましたが…。
なんかまた話が拡散しそうなので本稿はここらへんで終わり。
自分としては、アマゾンレビューの少なさが気になった一冊ということで。