玉田慎二著『医薬分業の光と影 薬剤師、官僚、医師会のインサイドストーリー』を読む。
薬剤師業界の業界紙記者が書いた医薬分業の歴史と現状、そして課題についての本。
どうしても薬剤師側の目線での語りになってしまうのは仕方がないし、著者自身も中立に語るなんて無理、と言っているので、そこは了解の上で読み進める。
業界裏話的なノリで進む本書だが、最終章が秀逸。
そもそもなぜ医薬分業が始まったのか、目的は何だったのか。
巷間よく言われる「西洋では、歴史的に、医師による毒殺を未然に防ぐために、医師と薬剤師を分けることになりました」
なんていう説明では、何となく騙されていると言うか、素直に頷けない人におすすめの一冊。
著者によると、ここ日本においては、旧厚生省による日本医師会の権力を削ぐための方策という側面があった、という。
医師会の力を落とすことを目的とし、その富の源泉となっていたクスリを奪えば良いのだ、と考えた厚生官僚。
そこが出発点だとすると、この分業の流れが止まることはないのだろうな、とも考えるに至る。
どんなに批判があろうとも、今後廃止になることはない。
日本医師会が組織として医薬分業を批判したとしても、個々の医院・病院はそれぞれ自分たちの利益を追求する以上、院内処方より処方箋を書くほうが保険点数が高い、となれば医薬分業は進む。
だからこその、門前薬局意味ないじゃん、からの院内薬局という流れ。
間違っても院内処方に戻す、という選択肢は病院の側にももはや無いわけだ。
そこに権益を伸ばしたい薬剤師業界の思惑も入り込み。
さらに薬剤師業界内部での、調剤薬局とドラッグストアの対立。
こういった話のオンパレードなので、政治本の類に興味を持てる人なら、楽しめると思う。
私自身は、医学部にも薬学部にも縁がなかったが、学生時代に医薬系専門の予備校で講師のバイトをしていたことがあり、どうしても薬学部というと、途中で医学部進学を諦めたやつら、という目線になってしまう。
ただ、著者によると医薬業界自体にもそういう空気感は常にあり、医師会にもまた薬剤師会を下に見る風潮がずっとあるのだそうだ。
そのような土壌があるなかで進んだ医薬分業なので、問題が起きて当然、という気もする。
医師会からしたら、薬屋界隈が医薬分業の伸展で急に儲けだしたぞ。医者より儲けてるところもある。けしからん、みたいなところはあるだろう。
更に、医薬分業の結果起きたことを一患者の目線で言うと、体がしんどいのに医者に行き、その足でまた薬局に行くのは面倒、ということに尽きる。
別にそこで診察を受けるわけでもないのにイチから症状を説明し、薬の入った袋を渡されるだけ。
で、お金は余計にかかっている、ような気がする。
デメリットばかりでメリットなんて感じたこともない。
そういった背景を踏まえ、それでも医薬分業以前には戻らないのだとすると、最後に著者が薬剤師に問うている「覚悟」については共感できる。
厚労省は制度として「かかりつけ薬剤師」を制定する方向へ動いている。
基準は相当に高い。24時間対応、在宅対応、その患者が飲んでいる薬の一元的な把握と管理、などなど。これを薬局ではなく薬剤師単位で患者と紐付けるというもの。
これには医薬分業への批判をかわす意味合いもあるだろうが、官僚の本音としては、
はたして「かかりつけ医」ほどの責任感をもって仕事に臨む「かかりつけ薬剤師」がどれほど出てくるのか。
でてこないだろ?
だったら、医薬分業をもっと進めて薬剤師の権益をもっと増やしたい、なんて言うんじゃない。
といったところだろう。
じゃあ、そこを逆手に取って「覚悟」を持った薬剤師に出てきてもらおうじゃないの。
医者に比べてプロ意識の高い薬剤師が少なすぎるぞ。
著者の言いたいことはそういうことなのだろうと思う。