辻村深月『傲慢と善良』読了。
映画で『朝が来る』を見た際に、原作のページをアマゾンで少し覗いてみたこともあってか、このところしきりにアマゾンから辻村作品がオススメされてきていました。
そのなかではこれが一番面白そうだったので読んでみることに。
自分の前から突然消えた同棲中の婚約者。
お話は、それを探す男の側の第一部と、消えた女の側の第二部の二部構成です。
女が失踪する直前まで同棲をしていた二人ですが、婚活の結果出来たカップルです。
男は40近く、女は30過ぎ、少々歳がいってから活動を始めた、ということですね。
男は、消えた女を追って様々な人々と出会ううちに、相手と自分の恋愛・婚活・結婚観を見つめ直すことになります。
一方、女も消えた先でのボランティア活動を通して自分のこれまでの人生を整理します。
男も女も、その言動はイタいと言えばイタいのですが、婚活あるあるなのでしょう。
しかし、結果的にこの距離をおいた時間が二人を再度結びつけることになるのですね。
男の側が、敢えてそれに踏み切ろうと思ったきっかけは実はよくわかりません。
というか二部構成の中で話者と時間軸を動かすことで意識的に省いています。
女の側の視点で二人を再会させたときには、それでも結婚への男の意志は固く、それを意外に思いながらも女はそれを承諾する、という流れです。
でも、女の側がそれを拒む理由はないとまで思うようになったきっかけはなんとなくわかりました。
ボランティア先で出会ったおばあさんに、自身の失踪までの経緯を話した際に、
「あんだら、大恋愛なんだな」
と言われたあたりでしょう。
男と「婚活」で出会ったという点に、やはり引っ掛かりはあった彼女ですが、そう言われたことでそれに気づいた、というか、そういう理解をすることにしたというか。
そもそも、結婚が学校や職場での出会いからの恋愛の延長線上にあるべきだ、という考えもイデオロギーなのでしょう。
もちろん、自分も少なからずそれに囚われている自覚はあります。
自分にも、学生時代から卒業後もしばらくつるんでいたグループの仲間がいたのですが、その中のひとりの女子が、いわゆる婚活で出会った人と結婚をしたのですね。
それも30そこそこの年齢で。
彼女のその結婚には、どうも合点がいかないというか納得感がないというか、仲間内でもあまり祝福する気になれず、結局自分は結婚式にも参加しなかったのです。
それまで参加した結婚式は、どれも新郎新婦ともに知っているというケースが殆どで、それに比べるとどうも冷ややかに見てしまう自分がいました。
でも、しばらくして皆子どもも出来て、それなりに育児の悩みも出てきたりなんかすると、まあ、変わらない。
誰との子であっても、どんな子どもも可愛いし、まあそういう過去のこだわりも消えるというか。
あらためて恋愛と結婚は違うと思い知らされるし、パパ・ママとしての付き合いとなると、そういう青い時代の記憶は別枠になりますね。
そのあたり、本作では結婚式がラストシーンなので、そういうところまでは描かれませんが。
おばあさんによる「大恋愛」との指摘は、見合い結婚が普通であった時代からするとそう見える、ということでしょうか。
そういえば『男はつらいよ』のタコ社長は、見合い結婚で結婚式のときに初めて奥さんと会ったんだけれども、どうも見合い写真とは別人らしくて困ったけど今更断れないしそのまま式に臨んだ、みたいなエピソードがありました。
笑い話にはなっていますが、あり得ないというレベルの話でもないのでしょう。
現代の「婚活」は、かつてお見合いを斡旋してくれた近所のおばさんの果たす機能を、婚活アプリに変えただけという言い方もできます。
それにしたって当人たちには、出会うまでの選択の余地も、出会ってからの選択の余地もあり、そこに恋愛要素を感じることはできるわけですね。
違和感があるとすれば、最初から結婚を意識した出会いになるという点。
傍からは、そこまで追い込まれてしまう前にどうして手を打たなかったのか、という思いになってしまいますが、そのあたりの当人たちの心境についても事細かに解説されます。
主人公たちが気づかない心の動きについても、女が地元高崎で利用したという結婚相談所の所長の女性の口を通して語られます。
タイトルの「傲慢と善良」という言葉も、その所長が婚活に望む人々の心持ちを表した一言から来ています。
結婚を含めた自分の人生との向き合い方、現実との折り合い方、社会への処し方など、決して学校の授業で教えられるものではありません。
それなのに、女性には出産可能年齢というリミットがある以上、気づけない人にとってはあっという間に取り返しのつかない時期がやってきてしまうのだな、と。
授業以外の学校であったり社会であったりで、本来なら揉まれながら、ときには傷ついたりしながら得る知見を、善良であるがゆえに親の言いつけを守るなどした結果、得ること無く過ごしてしまう。
また、下手に選択の余地があるがゆえに、自分の価値を高めに見積もってしまい、婚活でも、傲慢にも自分の釣り合いのある相手を見つけづらくなる。
女性だって40なんてすぐに来てしまいそうで。
ジェーン・スーならずとも「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」が発生します。
自分が勤めていた会社でも、40近い女性がまったく縁もゆかりもない人と結婚する、なんていう話が結構ありましたが、かなりの割合であれは婚活アプリだったり結婚相談所的なものを経由したものだったろうと思います。
そして、ある女性など、結婚前に妊娠までしていましたが、あれもタイムリミットを意識して、積極的にトライした結果なのだろうと思います。
多少強引だったかもしれませんが、少なくとも彼女は間に合ったのですね。
ラッキーなケースです。
本作での彼女も結婚式を迎える時点で35。
自然妊娠でいけるかどうかギリギリでしょうか。
がんばれー。
というわけで、結婚だけが人生じゃない、とか、女だからといって子どもを作らないといけないの?とか言う人には、まだまだオススメできない一冊。
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