『100分de名著 ディスタンクシオン』

『100分de名著 ディスタンクシオン』 評論

岸政彦『ブルデュー『ディスタンクシオン』2020年12月(NHK100分de名著)』を読む。

岸先生も、学生時代に『ディスタンクシオン』を貪るように読んだらしい。
その行動こそが、成り上がり組の社会学徒あるあるというかハビトゥスっぽいなぁ、という思い。
ええ、自分もそうでした。
専攻としては社会学徒ではなかったですが。

自分は、公立中を卒業した後は高専に進み、そこで高等課程を修了して退学。
その後、ブランクを経て一般受験で大学に入った口です。
高専時代にドイツ語も履修していたので、軽い気持ちで「ドイツ語既修クラス」を選択したら、そこは帰国子女の巣窟でした。
学内でも文化資本・経済資本の高いところの更に上澄みをすくい上げたような集団で、あっけなく疎外感を味わったというわけです。

初めのうちは、話が合わないのは、彼らが日本での生活が少ないからだと思ったりもしましたが、全員が帰国子女というわけでもありませんので、そういうことでもないのですね。
かと言って露骨に階級差があって差別されているというわけでもなく。
そこがまたもどかしいわけですが。
そんなときに出会ったのがこの『ディスタンクシオン』の二冊。
やはり読み込みましたよ。
日本とフランスとでは状況が違うというのは百も承知で、住む世界が違うと趣味・関心も違うというのはあるのよねー、と、ある種自分にとっての救いの書みたいな扱いになっていたようなところも。

当時、社会学系の現場では、宮台真司がスターダムにのし上がっていて、彼は自身の著書では、日本ではそういう階級差みたいなものよりは、コミュニケーションスキルの差が趣味の違いを生む、的な議論を前面に押し出していました。
まあ、まだまだ失われた30年のとば口で、格差とか階層とかそういう意識・議論は傍流でしたかね。
彼自身が実は上流の人なんだから仕方がない。
いくらフィールドワークでブルセラ少女を取材してたって、見えないものは見えないんです。
(いや、だからこそ逆にそういった下層の危険な世界への覗き趣味みたいなところもあったのか?)
そういう議論を始めていたのは佐藤俊樹先生くらいでしょうか。
それでも話題になった『不平等社会日本』は出版が2000年。
それ以前から、講義やゼミでは階層についての議論は頻繁に出てきてはいましたが。
時代としてはもう少し待たないといけなかったわけです。

宮台氏には、一方では、お前の生き辛さの原因はコミュニケーション・スキルの問題であって、それは後天的に獲得できるものだから頑張れよ、と言いつつ、他方では、俺は小さい頃は京都でヤクザの子と友達だったし、麻布だし、ナンパ上手いし、お前らとは違う、みたいなことを言ってマウントを取るところがあり、まあ、信者でない限りはちょっとやりづらい感じでした。
あれが社会学なのだとしたら社会学には近づかないほうが良い、と思わせるには十分な。
まあ、上野千鶴子女史にも、自分は京大の学生時代には色恋に励んだもんね、と初な学内女子相手にマウンティングするようなところはありましたが。

今から振り返ると、牧歌的な時代だったと思います。
邦訳が出て30年。
当時よりも切実に『ディスタンクシオン』が読まれているとしたら、それはそれで不幸な時代なのだと思います。

テレビの本放送での岸先生の語り口というか姿勢というか、そういうところにも好感が持てました。
分析対象、相手について、簡単に理解する、と言ってしまうことは避けないといけませんが、「他者の合理性」という言葉での解説には納得がいきます。
ブルデューの理論もそういう他者理解の一助のためにあるのであり、ただ単に経済資本・文化資本のマトリクスのなかに人を当てはめて楽しむ、というような性質のものでもないのでしょう。
こういう方が社会学者としてテレビに出てくるというのは、時代も変わったのかな、と。

宮台氏や上野氏のような、自分は安全なところにいて若者をけしかけるみたいなところは、かけらもない。
弟子筋の古市氏の振る舞いとかとも併せて、いやー、社会学者ってろくでもないな、っていう印象をお持ちの方こそ、この本(というか冊子)、ならびに放送に触れてみてほしい、と思った次第。

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