前回の『ある男』が戸籍が入れ替わった男の話なら、今回はそもそも戸籍のない女の話。
彼女が無戸籍であることについては、当然に本人に過失があるわけではないですし、親を含め環境に恵まれなかったのは事実です。
そのことによって醸し出す不幸感で、恋人(若葉竜也)やかつての同級生(森永悠希)だけでなく観客である我々もうっかり騙されてしまいそうになります。
でも、一旦整理しましょうね。
起きている事象だけを切り取ると、彼女は四人の人殺しです。
それも戸籍を得るという目標のために、自分に好意を寄せてきたかつての協力者さえも葬れる決断力もあるレベルの。
そもそも恋人からプロポーズを受けても、これを機にかつての罪も含めて自白し償いをするという道は取らずに、翌日に失踪するという選択をとってしまう時点でアウトですよ?
ややもすると、それに気づかずに見終えてしまえる脚本と杉咲花さんの演技を称賛すべき作品なのでした。
物語中盤になって、自殺願望のある女性(石川瑠華)が出てきたあたりで警戒感が高まりましたが、ラストはそうきたか、と。
北君(森永悠希)が不憫でなりません。
市子は失踪後に北君を頼ってはいるものの、あれ、好意ゼロですからねぇ。
単に利用しただけ。
北君は「俺にしか頼れない彼女」に酔っていますけれども。
そんな彼女と関わってしまったことで、結局文字通り人生が終わってしまいました。
メンヘラより質悪い。
でも、高校時分にあんな女子に出会って、あんな経験をしたら、まあ、人生めちゃくちゃになってしまうのは仕方ないか、とも思えてきます。
親ガチャならぬ女ガチャ・出会いガチャ。
男の子どもも持つ親としては、どうしたらメンヘラやこういう類の女に引っかからないように教育すべきか頭を悩ませます。
早めに色々経験しとけ、くらいしか言えないわけですが。
でも初手でこれだったら、もう人生詰み。
それを無理やり分からされる作品。
あと、市子の母(中村ゆり)が、自分を訪ねてきた市子の恋人(若葉竜也)に「色々限界だったんよ。」とこぼすシーンがありますが、先のことを考えないので、限界になってから常に最悪の選択を重ねてしまうタイプの人っていますよね。
本人たちにとっては仕方ない、他に道がなかったかのように見えますが、決してそんなことはありません。
限界になるまで問題を放置しているからこんなことになっちゃったという…。
でも自身は、運が悪かったとか、世の中がとか社会がとかそういう話で理解しがち。
これも子供らにはそんな人生理解をする人間にはなってほしくないわけです。
ではそれをどう伝えていくべきなのか。
親目線でも色々と考えさせられる作品です。