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監督の素行について文春砲を食らった作品ですが、そこは触れずに内容について書いてみましょう。
特別養子縁組という制度で子どもを迎え入れた家族と、望まない妊娠・出産をした家族の物語です。
主人公は迎え入れた側の女性(永作博美)で、武蔵小杉のタワマンに夫(井浦新)と暮らす共働き夫婦。
ふたりとも一流企業的な描写のあるオフィスで働いており、社内恋愛からの結婚といういわゆるパワーカップルです。
結婚後も同じフロアで働いているのですね。
キャリアを優先して子作りは後回しにしていたのか、それとも自然に任せるままにしたのが少し長かったのか、不妊治療に踏み切ったのも結構遅かった印象です。
夫婦で検査をしてみて、夫の側に問題があることが判明したという流れです。
月イチで羽田から札幌まで飛んで人工授精を試みていたものの、あるとき乗るべき便が欠航となったことで二人の気持ちが切れ、妊娠・出産を諦めることに。
井浦新が「もっと早くから~」と悔やむ場面がありますが、これも多分、よくある話なのでしょう。
そもそもなかなか妊娠しないという場合に、なぜかまず疑われるのはまず女性の体です。
一通り女性の側の検査・治療から入って、それでも…、となってからようやく男性の側の検査に移り、そこで実は問題はそっちだったと判明する、みたいな。
その時点で結構な時間が経っているものの、男性が治療を始めるまでには逡巡もあり、また少しの時間が経ち、更に妊娠の可能性が低くなるなど。
ところが本作の二人は、最初から夫婦で不妊外来を受診しています。
夫婦の間で、不妊についての温度差、子どもを持つことへの温度差は無かったのですね。
むしろ、実子を持つことを諦めた後、ふとしたニュースで特別養子縁組制度のことを知ってからの動き出しは、夫のほうが早かった様子もあります。
養子を斡旋するNPO法人の集いでの場面は、ノンフィクションを見ているかのようでした。
けれども、この制度について観客が抱く疑問はすべて代表(浅田美代子)の解説や質疑応答の中で解消されるという、脚本の素晴らしさに唸りました。
その後、夫婦は養子を授かることになりますが、赤ちゃんを引き取る際、そこで出会う生みの親(蒔田彩珠)である中学生と面会したところから、今度はその中学生の物語へと移ります。
特に家庭環境にも問題のない奈良の中学生です。
同級生の彼氏との馴れ初めや交際場面などが、奈良の風景とともに過ぎていくわけですが、河瀨直美作品ならではの美しい奈良ですね。
初恋とはいえ、愛し合っている者同士の行為による妊娠で、そのあたりが出産にあたり滞在したNPO法人で彼女が出会った他の女性陣の妊娠と対比されて描かれます。
実際には、特別養子に出される子どもというのは、この作品のように風俗の客に孕まされた、みたいなのが多いのでしょうか。
また、出産後に彼女が家出をしたのも、本人としては悪い男に騙されたとかいうものではないのに、親戚にそれを汚されるような言い方をされた、侮辱をされた、と感じたところからの反感に基づくもの、という流れです。
そして、家出をした後に吸い寄せられるようにたどり着いたのが、横浜の新聞販売店であった理由が、息子が暮らす武蔵小杉に近いからだということは、本人のセリフで確認できるのでした。
作品の序盤から、主人公に「子どもを返してほしい」と電話をかける主も、そして中盤で実際に主人公宅を訪問する女性も、画面上は巧妙に顔が映らないように撮影しています。
対面した主人公夫婦にも「あなたは誰ですか。」と言わせます。
しかし、声でそれが蒔田彩珠なのは明らかなので、見ている側の関心としては、どのようにしてそこまで転落したのか、ということになります。
なんとなく怖いもの見たさと言うか、『嫌われ松子の一生』的なものも期待してしまったりしますが、二十歳そこそこの少女を取り上げて「松子」のような転落を見せるのも酷だったのでしょう。
新聞配達員という穏当なところに落ち着いております。
いつの間にか友達の借金の保証人にさせられていたとかいうことはありますが、返済は単発だし、それでソープに沈められたとかいう展開ではありません。
何かにつけ気にかけてくれる販売店の店長の利重剛さんがまたいい味出してますね。
途中までは、このおっさんに酷いことをされる展開だったりするんじゃないかとヒヤヒヤしていましたが、まったくそんなことはありませんでした。
むしろ、理由を見つけては食べ物や家具をくれたり、休みをしても心配をしてくれたり。
作品の終盤、消えた彼女の捜索願を警察に届け出てくれたのも、この店長だったのではないでしょうか。
マスコミづとめの友人に聞いたのですが、新聞販売店では、むしろワケアリの人を抱えるべし、みたいな風土があるのだそうです。
いや、別に「新宿タイガー」さんは仕事人としてはワケアリとは思いませんけれども、まあ、普通にサラリーマンが出来る人では無さそうですよね…。
最後の場面は、永作は我が子を連れて、当てもなく武蔵小杉からみなとみらいまで出向いて蒔田を探し回ったのか?とか思いましたが、そこは「朝斗の広島のお母ちゃんだよ。」のセリフで押し切られておきます。
他にも、捜索願が出てすぐに養母に当たれる程、神奈川県警は有能か?とか、まあ、色々ありますけれども。
U-NEXT、dTV、Huluでも観られます。
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