映画『罪の声』

映画『罪の声』 評論

Amazonプライム・ビデオで映画『罪の声』視聴。

グリコ森永事件をベースにしたフィクションです。

あの事件は、いろいろな人がいろいろなことを書いていて、それだけインパクトの強い事件だったということなのでしょう。
犯人グループについては、警察をあれだけ撹乱したりおちょくったりしたということで、反体制側のヒーローみたいな扱いになっているところもあります。

学生時代に、キツネ目の男こと宮崎学氏と佐高信氏の公開対談(@駒場寮)を見に行ったことがありましたが、彼自身も犯人一味と見られることについてまんざらでもないというか、喜んでいるような節がありました。

普通に考えたら、始まりは上場企業の社長の誘拐だし、会社に放火はするし、青酸カリ入りのお菓子はばらまくし、何より子どもを犯行に使ったりしていて、とんでもないことこの上ありません。
当時、自分と同じ年頃の子どもの声が使われていて、ゾッとしたのを覚えています。
たどたどしい声で原稿を読み上げながら、ところどころ隣りにいたのであろう大人に「これでいい?」的に語尾を上げて話すあたりが、余計にリアルで怖かったですね。
そして、自分の親がそういう人で無くて良かった、と。

なので、その恐怖感のほうが先に来た自分としては、犯人と疑われて光栄に感じているような彼の素振りには違和感を持ったのでした。
ちなみに、そのときの対談相手の佐高信氏の言葉で一番印象に残っているのは「おれたちはタリバンだから」というもの。
時期的に911の後とかだったのかな?
世が世ならば、自分はタリバン側のポジションでアメリカと闘っていたはずだから、という文脈での発言だったと思います。
それには宮崎氏も大ウケして同意していました。

反米・反体制であればそれで良しとする底の浅さへの違和感。
当時彼らに感じた違和感の正体が、本作品で無事回収できたような気がします。

本作品では、犯人グループの一人に、学生運動の成れの果てみたいな姿を用意したのも、主人公の新聞記者にその犯罪を断罪させたのも、原作の著者が1979年生まれであることで納得。
同じような感覚を持った方なのかもしれません。

もしかしたら今後はそういう切り口の作品は増えてくるのかもしれません。
全共闘ならずとも団塊の世代は後期高齢者入りし、人口は減る一方。
そうするとボリュームゾーンでいうと、団塊ジュニアが最も多くなるわけで、そこにウケる切り口が多くなるのは道理です。
ただでさえ、団塊の世代にはルサンチマンの溜まっている我々ですからね。
その依って立つところを論破する絵は、大いに好まれることでしょう。

先日も重信房子の講演会での発言が話題になっていましたが、それよりもその講演会の写真に写った面々の年齢層のほうが自分は興味深かったです。
これ、10年後はなさそうだな、と。

問題は、なぜ今までそういう切り口の作品が多くなかったのか、という点です。
でも、これは単に書き手の世代の問題なのでしょうね。

子どもの頃、映画化までされた『ぼくらの七日間戦争』というシリーズがありました。
子どもを理解した体の大人が書く子供向け小説です。
自分はそういう作品自体があまり好きではなく読んでいませんでしたが、映画に関しては、当時宮沢りえの絶頂期だし、角川だし、映画館に足を運びました。
でも、内容がまったく受け付けませんでした。
唯一記憶に残っているのは、終盤に子どもらの罠にかかった佐野史郎が無表情のままウォータースライダーを滑り降りるシーン。
後に、あれは学生運動をモチーフにして、その子ども版ということで書かれた作品なのだ、という解説をどこかで目にしました。
そこでようやく、なるほど、とは思ったのですが、それを受けても尚、理解はできないのですね。
書き手が学生運動にノスタルジーを感じている時点で、わかり会えないのだろうと今では思います。

押井守の『人狼』も、自分は楽しめませんでした。
学生運動と言うか反体制運動がずっと続いている世界線でのお話なのでしょうが、やはりナチュラルにそれを楽しめないのですよね。

世代の違いと言ってしまえばそれまでです。
もし、子どもの頃の自分があんな犯罪の片棒をかつがされていたら、その後の人生はどうなっていたのか。
まさにその想像を膨らませたのが本作でしょうし、そういう目であの事件を見てしまうのは、当時子どもだった世代ということになるのでしょう。

本作品は、事件を追う記者(小栗旬)を主人公としつつも、それを向かわせ、そして対峙させるのはその「声」を吹き込むことになった当時の少年(星野源)です。

ところで、この手の実犯罪をベースにした作品の第一人者といえば一橋文哉ですが、先日の『餃子の王将社長射殺事件』では、真犯人が捕まってみたら著書の犯人像とまったく違っている、ということでツイッターでも話題になりました。

何が「女殺し屋「抱きつきのリン」」だよ、と。
こういうことがあると、彼の他の著作についても信憑性がさがってしまうのが、ノンフィクションを謳う作家の辛いところです。

その点、本作品は完全に「フィクション」という触れ込みです。
登場人物は事件を「ギン萬事件」と略して呼んでいます。
ところで、関西では「グリ森事件」という略し方が普通なんでしょうか。
関東圏の我々は、どっちかというと「グリコ森永」と呼んでましたよね。

なお、作品の中でも印象深い場所となる戎橋のグリコは「ギンガ」となっています。

この事件の狙いが、現金の引き出しではなく株価操縦だったのではないか、というのは、当時は子どもですから知る由もありませんでした。
Wikiを見て、そういう説もあったのだな、と。
で、それにしては現金の授受にこだわり過ぎている、というのは素人でも思うのですが、同様の疑問を作品中の新聞記者にも言わせています。
そしてそこを、犯人グループが2つに割れている、という設定にしてらしくしてあるあたりがさすがです。

株価操縦で儲けようというインテリグループと、ゆすりで儲けよういうヤクザグループとの共闘と分裂。
それを実際の事件の時系列と併せ、齟齬の出ない形で落とし込んでいます。

後者については35年の時を経て、もう組長も死んでるし組も解散してます、で片付けていますが、前者については最後に主人公に追い詰めさせ論破&断罪。
で、それが概ね、現役世代からの団塊の世代に向けてのそれになっていて、そこがカタルシス。

犯人の元恋人に「あの人は化石。」と言わせますが、この上ない形容でしょう。

U-NEXTdTVHuluでも観られます。

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