プライム・ビデオで映画『ケイコ 目を澄ませて』視聴。
映画公開時にはWeb上で広告をよく見ました。
Web広告を多く打っていたためなのか、それとも「お前、こういう邦画好きだろ?」的に自分宛てに集中投下されていたのかはわかりませんが、確かに気になってはいました。
2022年12月公開なので半年経たずにネットで見られるようになったのですね。
監督は『きみの鳥はうたえる』の三宅唱さんで今回も原作がある作品です。
ただ、今回の場合はノンフィクション的なのですね。
どのあたりまで原作を踏襲しているのかわかりませんし、もしかしたら忠実なのは「聴覚障害者女子プロボクサー」という設定だけなのかもしれませんが、トレーニングや試合のシーンでのリアルさには思わず息が止まります。
自分はボクシングの心得はまったくないのですが、作品の中で彼女の気持ちがノッているときとノッていないときとではパンチのリズム感がまるで違うのは、映画ならではの演出なのでしょうか、それともこの競技では当然の現象なのでしょうか。
映画の冒頭でジムから聞こえてくる打撃音もミニマル系の劇中音楽かと思いきや、拳をミットに叩きつける音で作ったものでしたので、その丁寧な音さばきに一気に引き込まれました。
無論、それらの音の全てを、彼女は聞くことができないわけでその彼女目線、というか耳線からするともう少し投げやりな音響でも良さそうですが、そこはあえてこだわったということなのでしょう。
あと、2020年12月から物語が始まっており、当初からコロナ禍でのお話であることが明示されています。
彼女を含め登場人物はマスクを着用しており、皆何となく鬱々としてどことなく苛ついている様子も伺えます。
まさにコロナ禍なのですが、そういう空気感もあの頃特有のものでしょう。
すでに懐かしさすら感じてしまいます。
5類に引き下げられたのなんてつい数週間前だというのに…。
それはともかく、あの空気感を切り取って映像化出来ているところはさすがです。
彼女がプロ2戦目を終え、少し燃え尽き気味になった理由などは言葉ではまったく説明されないのですが、その鬱屈した映像の空気感で十分に説得されてしまいます。
その後、ジムの閉鎖や会長の入院といった事件を契機に、再度ボクシングと向き合うようになり、終盤でプロ3戦目を迎えることになります。
それでも、別にその試合に勝ってハッピーエンドというわけでもなく、ましてやそれでスポンサーが現れてジムの存続が決まるとかいうわけでもありません。
それもまた、特に明日に希望が見えるわけでもなかったコロナ禍の物語としては当然のような気もしてくるから不思議です。
コロナ禍の物語としては『ちょっと思い出しただけ』と同じくらいオススメ。