堀江ガンツ『闘魂と王道』読了。
副題は「昭和プロレスの16年戦争」とあり、表紙には馬場と猪木の写真。
裏表紙には「1972」と「1988」とあり、全日本プロレスと新日本プロレスの誕生から、猪木が国会議員に転出し半ば引退したところまでを両団体のエピソードをトピックごとにまとめています。
あえて昭和の時代で終えているので、「有田と週刊プロレスと」シリーズでよく取り上げられるトピックよりも若干時間軸が前にずれる感じですね。
トピックごとにまとめたのは良いのですが、一冊の本の中でも内容が重複する箇所がいくつもあります。
内容が重複するだけならまだわかりますが、文章がまったく同じ箇所もあります。
さすがにこれは誤植というか編集段階のミスかと思いきや、申し訳程度に「前述のように」とあったりするところもあるので、半ばは意識的なのかな、と。
なので、結構分厚い本(全592ページ)ですが、中身はそれよりは薄いと見て良いです。
巻頭はアントニオ猪木へのインタビュー。
もしかしたら活字に載った猪木最後の声なのかもしれません。
猪木自身の言葉で新日を振り返ってもらっていますが、自分の後継者として佐山聡を挙げていて、少し意外に感じましたが、でも当然か、とも。
それから、闘魂三銃士をまったく評価していないところも、納得感はあります。
猪木御大からすると、猪木イズムが届かなくなった世代というか、そこからズレ始めた、という意識なのでしょうか。
昔、ナンちゃんの番組で橋本真也が猪木にドッキリを仕掛けるということがありましたが、当時ですら、昔では考えられなかったことだろうなあ、なんて思いながら見てました。
とはいえ本書の序盤のころの話は、自分が生まれる前の出来事ということもあり、当然あまりリアリティはありません。
でも、しばらく読んでいても、どんぶり勘定のヤクザの興行の世界が続いていて、そういう戦後レジュームみたいなものは、結構最近まであったのだな、と。
半ばは『東京アンダーワールド』です。
本書では具体的に東声会とか安藤組とかの名前は出ては来ませんけれども。
80年代に入ってくると、段々と自分の記憶とも符合してくるのですが、それでも実はあまりリアルタイムでは知らなかったことも。
というのは、子どもの頃、自分は剣道の習い事をしていて、練習が月曜と金曜の夜だったのですね。
なので、金曜夜のワールドプロレスリングのときはあまり見られませんでした。
学校ではタイガーマスクの人気はすごかったものの、佐山タイガーの試合を生で、というか実際にテレビで見たことはほとんどなかったです。
むしろ記憶に鮮明に残っているのは山田邦子司会のバラエティ色の強くなった火曜夜に移ってから。
テーマ曲がチャゲアスでしたね。
「ラプソディ」は今でも好きな曲だったりします。
しかし、子どもながらにあの路線は失敗だったと思いました。
だって1時間しかない番組なのに、なんで山田邦子のトークを挟まないといけないのか、って思いましたからね。
本書によると、視聴率は5%まで落ち込んだとか。
あの頃の迷走は子どもでもわかりました。
TPG(たけしプロレス軍団)はリアルタイムで覚えています。
ガダルカナルタカが両国でマイクを持って猪木を煽ってたシーンとか。
急遽ベイダーと戦った猪木が失神したりとか。
そして、そのあたりで、子ども時代のプロレス観戦の記憶は途切れます。
中継が深夜に移ったこともあるでしょうね。
プロレスを見なくなりました。
学校に行けば、クラスの中に熱狂的なプロレスファンというのが何人かはいるもので、深夜の時間帯の放送の様子を面白おかしく語ってくれたりするわけですし、ゴングとか週プロを持ち込んだヤツに見せてもらったりするわけですが、すでにサブカル。
サブカルになってからプロレスは面白くなったということはあるのでしょうが、そこは本書の埒外。
本書が触れた「昭和プロレスの16年戦争」とは、プロレスが一般大衆の娯楽の座から滑り落ちていった16年ということになります。
でもそれは、平成に入りプロレスがサブカル化して、かえって復活を遂げるために必要だった時間ということになるのかもしれません。
そして、今日から見た過去の出来事が、歴史化され伝説となるためには、本書のような解説書が必要だということになるのでしょう。
巻末は、天龍とテリー・ファンクの対談で締めています。
テリー・ファンクが未だに新日に対する対抗心を語っているのが面白いです。
そういう対抗軸があったことも、日本のプロレス界にとって幸運だったのだな、と。
新日と全日の抗争といっても、馬場と猪木の奇妙な共犯関係みたいなところがあったこもともわかり、興味深かったです。
全日の社長の座を奪われた馬場も、猪木とのパイプもあるのだと匂わせることで、日テレに対する発言権をキープしているようなところとか。
馬場が挑発に乗らないことを前提に安心して煽る猪木とか。
重複するところが多いので、気になるトピックだけつまみ読みするというのでも十分かも知れません。