相場英雄『覇王の轍』読了。
相場作品を読むのは『Exit』以来です。
あの作品はコロナ前からコロナ禍に至るまでの時期を描いていましたが、本作はすでにコロナ後の物語になっています。
「STORY BOX」という雑誌で2021年9月号から2022年7月号まで連載していたとのことです。
その時期に書いたにしてはコロナ後の世界は少し早すぎる感はありますが、やはりコロナ禍で無駄な外出が控えられている世界線では物語も書きにくいのだな、と。
とはいえ、北海道新幹線の工事での事故や汚職事件の捜査が主となっているので、コロナ後となった今読んでも、さほど違和感はありません。
警察捜査の手にコロナ禍・後で違いがあっても困りますしね。
税務署の税務調査についてはコロナ禍中には結構「自粛」があって、最近になって増えた、みたいな話を顧問税理士さんから聞きましたけれども…。
物語の主人公は曲がったことが嫌いな警察庁のキャリア官僚ですが、「新宿鮫」みたいにそれゆえに組織の中でアウトロー的になってしまうというわけでもありません。
というかそうなりそうだったところ最後に「政局」のお陰で救いが出るラストです。
相場さんの作品は、現実に即しているもののこういう多少なりとも明るい結末を用意してくれるのが定番なのでしょうか。
しかしながら、そのきっかけが工事現場での事故でまた一人死人が出たから、ということなのは、主人公たちの意識とは裏腹に、物語としては人の命を都合よく軽く見ているような…。
まあ、フィクションなので良いですが。
それにしても、安倍菅政権を悪く書きすぎているようなきらいはあります。
捜査が一旦終了したのは、ときの官房副長官の横槍で、それが再開するのはリベラル色の強い政権に変わったから、というのも設定としては悪意が感じられますよね。
ただ、リベラル寄りの識者からすると世界はこういう見え方になるのだな、という勉強にはなりました。
なお、本書ではあの村木厚子さんが帯を書いていますが、誰に感情移入したのか気になるところ。
「貴方に追体験してほしい。彼女が組織で生き延びるための苦悩、真実を貫くためのあがきを。」
とあるので、文字通りには主人公であるはずですが、むしろ彼女の来歴からしたら、収賄側として逮捕された栗田さんなのでは?と。
まあ、作中の栗田さんはいさぎよく自分の罪は認めた一方、村木さんは徹底的に戦い無罪を勝ち取ったわけですけれども。
いずれにせよ、作中ではNPOというのは弱者を救う素晴らしい組織ということになっていて、NPO全般に対して懐疑的な目が向けられている昨今では少しリアリティが薄れてしまっているかもしれません。
まあ、WBPC問題は2022年後半以降のトレンドなので、本作の連載が終わって以降の話。
致し方ありません。
むしろ、それを鑑みると新庄耕さんの『夏が破れる』は先見の明がありすぎたということでしょう。
そういった事情抜きにしても、北海道各地の描写が素晴らしいので、北海道好きにもオススメしたい一冊。