川村元気『私の馬』読了。
ご自身の手によって映画化されることを前提にした作品でしょうか。
実際の事件に着想を得たとのことですが、2時間できっちり完結しそうなちょうどよい内容に仕上がっていますね。
流石です。
勤め先のお金に手を付けてしまう独身女性の物語です。
題材だけ見ると角田光代さんの『紙の月』に似ています。
しかし、あの作品が専業主婦として満たされない毎日を送る主人公が落ちていく様を描いているのに対し、本作の主人公は転落系の母子家庭で育った未婚のOLです。
短大を卒業して地方の造船会社に就職し25年、同期もいないので事務・経理まわりを一手に引き受けているという、ロスジェネあるあるな設定です。
組合の経理も任されていますが、監視の目も緩かったことから使い込みが始まるわけです。
最初は後で戻せば良い、という心持ちで始まるものの、最後には億単位になっているわけでそのあたりのタガの外れ方も『紙の月』に似ていますね。
使い込んだ先は男ではなく馬なのですが。
『紙の月』は2012年で本作が2024年。
干支が一廻りしてなんとなく日常に不満を抱く女性としての主人公が、専業主婦からロスジェネOLとなっていて、より切なさが増しますね。
無口な主人公は、職場でも極力会話のない生活を送っていますが、運命を感じた馬とだけはコミュニケーションが取れた、という体で運命の馬にのめり込んでいくわけですが、最後にはそれすらも裏切られます。
やはり気になるのはそのエンディング。
「ただの馬」となったストラーダは、その前段での「賢いハンス」のくだりからすると、主人公とその馬とは実は通じ合ってなんかいなかったよ、ということを表しているのでしょうけれども、これは映像化するとしたらどんなものになるのでしょうか。