『安倍晋三 回顧録』読了。
今更ではありますが、年末年始で読んでみました。
いわゆる政治家の回顧録というものをこれまで読んだことがなかったので、こういう形式のものがスタンダードなのかどうかは知らないのですが、インタビュアーの問いに対して、安倍さんが答えるという形で安倍政権を振り返っています。
問いかけに対してストレートに答えているところもあれば、違うことを話し始めるところもあれば、それは答えられない、と正直に答えているところもあります。
そのあたりの切り分けの仕方を、政治通の人ならきちんと押さえて読み込むのだろうな、という気はします。
何を答えていないのかが重要だ、みたいな。
自分はそこまでの気力はないので、普通に読み進めましたが。
とはいえ、インタビュー自体は生前に行われたものの、その後原稿が出来上がった後も、安倍さんの生前中には、ゴーサインが出なかったというのも頷けるほどの率直な回答はそこかしこに伺えます。
オバマもメルケルもまだ存命中だし、彼・彼女はこれを読んでいい気はしないでしょうね。
機密に関わるとか国益を損ねるとか、そこまでのことではないとしても、今後顔を合わせることがあったらちょっと気まずくなるだろうな、という。
ある意味安倍さんがあんな形で亡くなったからこそ、この内容の本書を今読むことができるわけで、それはそれで心中は複雑なものがあります。
当然に、本書の中であれこれを語る安倍さんは、自分がすぐに死ぬなんていう運命は知らないわけで、より切なくなります。
具体的な内容で面白かったのは以下の通りです。
リフレ派の経済評論家を中心に「安倍さんの経済学への造詣はとても深い!」、と持ち上げる向きは多かったですが、本書では企業は内部留保があるのだから給料を上げられるはず、という主張をしているなど、少し怪しいところも。
財界への賃上げ要請の根拠がここだったとすると、ちょっと突っ込まれたら危うかったかも。
無論、労働者の味方たる野党がこの要請に異議を唱えるはずもないので、そんなことはなかったのですが。
というか、本来野党が主張すべきことまで安倍政権が先取って行なってしまうので、ますます野党の存在意義が無くなる、みたいなことが往々にしてありましたよね。
ロシア、特にプーチンへの甘さがあった、という主張が、ウクライナ侵攻後に吹き上がりましたが、安倍さんのなかでの対処すべき優先順位がチャイナだったからだということがわかります。
逆にアメリカ、というかオバマの姿勢としては親チャイナでロシアを敵視したものだったことが、第二次政権当初にギクシャク感があった一因だったのかな、とも。
プーチンとの間で領土問題を解決できると考えていたのか、というインタビュアーの質問ははぐらかしています。
それなのに交渉の背景や流れをとうとうと語っており、そこに賭けた思いを読者は逆説的に知ることになります。
二島返還を落としどころとして、ある程度、確度があったのでしょうね。
残念です。
モリカケ問題については、自分に落ち度が無いので強気一辺倒です。
財務省の罠だったんじゃないか、という愚痴についてはさもありなん。
第一次政権のときの年金問題も、なぜか野党のほうが資料を持っている、というのはありましたよね。
あのときは社会保険庁の職員が自治労だからそのルートで野党に情報が渡っているのかも、みたいな見立てがありましたが、財務省だとさすがにそれは無さそう。
普通に安倍さんを討つために官僚が情報を野党にリークした、というほうが有り得そうです。
小池百合子評が秀逸。
彼女の原動力は上昇志向だろうけれども、上昇して何をしたいのかが見えない。
上昇すること自体が目的になっている、と。
築地豊洲問題にせよ、太陽光パネル問題にせよ、WBPC問題にせよ、まあ彼女自身の軸みたいなものは見えないですからね。
売国奴だという指摘も国士だという評価も当てはまらないのでしょう。
ところで『女帝 小池百合子』はお読みになりましたか?と生前に聞きたかった…。
日銀の資料で2002年からの2008年の景気拡大期に潤ったのは大企業や輸出産業中心の関東甲信越と東海地域だけだったので、地域の偏りの無い観光産業を伸ばすことに努めた、とあり、腰を据えた製造業の育成みたいなところまでは視野になかったのだな、と、そこは残念に感じました。
今、岸田政権下でTSMCの工場の誘致だとかサムスンの研究所への補助金だとかが進んでいますが、安倍菅路線とは違う、健全な路線変更と思います。
まあ、コロナ禍なんて事前に予想できなくて当たり前なのですが。
とはいえ、読み終えた後に出てくる感想は唯一つ。
返す返すも惜しい人を亡くした。
それを痛感させる一冊。
コメント
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