堀新・井上泰至編『信長徹底解読:ここまでわかった本当の姿』を読む。
信長についての最新研究の論考が各テーマごとに今起きている論争も整理しながら載っている。
テーマごとに二人の著者の担当という形だが、それぞれ信長の実像と虚像という形での分担にしており、この本の中で論争は無い(ように見える)。
編者のあとがきで、発行が遅れに遅れて申し訳ない、といった記述があるが、これなどこういった論争を避けるための調整に手間取ったのか、などと邪推もしてしまうが。
なお、実像編でそのテーマの最新の研究での歴史上の事実とみなされていることが書かれ、虚像編で過去どういう背景があってどのように語られてきたかが書かれ、の分担が編者の意図したところだろうが、そのことが各著者にうまく伝わって無さそうな章も散見される。
とはいえ、歴史を楽しむ側にとってはその峻別が大事なわけでもないので、それはそれで良し。
テーマが多岐にわたっているが、なにぶん著者の数が多く、ごった煮感が凄い。
それでもなお、本書を面白くさせてているのは織田信長という人物そのものの魅力だろうと思う。
一冊の本にストーリー的な読み込みを期待する向きには、倉山満『大間違いの織田信長』とかを推すし、本能寺の変での光秀の動機についての推察を楽しみたいなら明智憲三郎の一連の書籍『織田信長435年目の真実』などを勧めたい。
本書の各論者のポイント
○桶狭間の合戦
今川軍が尾張領を素通りして伊勢志摩侵攻を図ったのに激怒した若き信長の突発的な行動が発端。
織田軍は奇襲ではなく正面突破で義元を討った説が今のところ有力。
○美濃攻め
道三から信長への国譲りの遺言書は、本当にあったかどうかは別として、そのようなストーリーが美濃の武将が斎藤家を見限り織田方に寝返る際の精神安定剤として寄与していたと見られる。
○元亀の争乱
織田信長と浅井長政とのコミュニケーションミスの連鎖が、あんな結果に。
○長篠の戦い
鉄砲三千丁の三段撃ちはさすがにフィクション。
当時、信長は本願寺との戦を主軸にしていて武田勢相手に兵を失いたくなかった。
それゆえ守戦を決め込み、しばらく長篠城の前に兵を貼り付けておけば相手も撤兵するだろうと見込んでいたところ、勝頼はそれを相手は我らに怖気づいている、と見誤ったがゆえの偶発的な戦。
江戸期になり、華々しく語られたのは徳川が参戦した戦だったため。
○朝廷との関係
足利氏や徳川氏と異なり、信長・秀吉は幕府を開かなかったため、明治以降に「勤王」として脚色されてきた。
本能寺の変については、無論動機はわからないが、石谷家文書の研究から光秀が長宗我部と信長の間の板挟みにあっていたことは、すでに変の背景として列記される事項となっており、ほー、となった。
十数年前だったか、桐野作人氏の著作で読んだときはまだ新発見!みたいな扱いだったような。
信長について一家言ある方には是非。