ひとしきり話題も出尽くした感のある石井妙子著『女帝 小池百合子』を読む。
アマゾンのレビューでも、最高評価のものが過半を占める中、批判的なものもある。
アマゾンの場合、星1つのものは、著者を嫌ってるだけで読みもしないで投稿しているようなものもあったりするので、あまり参考にならないのだが、この本の場合にはそういうこともなく。
で、それらのうちのいくつかに、文章の中に著者の小池に対しての悪意が感じられる、といった記述があった。
うーん、そうかなぁ。
私は悪意というよりは苛立ちを感じたのだがどうだろう。
そして、少し考えてみて、これは真面目なノンフィクション・ライターなら当然こうなっちゃうだろうな、とも。
ノンフィクションの場合、対象が存命の人であれ故人であれ、まずはその著書なりインタビューで語っていることを中心に事実を積み上げて、人物の輪郭を探っていくというのが常道になると思われる。
その上で疑問点があれば、その対象、あるいはそれが難しければその周りの人々への取材を通してそれを解消する、というもので、そこから外れればノンフィクションからノンが取れてしまう。
無論、ノンフィクションの作品の中にも、著者の切り取り方とか角度の付け方とか、そういう部分に面白さが出ることは往々にしてある、というかこちらもそこに面白さを求めて読むこともあるわけですが、それだって事実からずれるわけにはいかない。
それだと妄想を含む単なるお話になってしまい、そういう仕事の仕方は著者の本意ではないだろう。
別に小説を書きたいわけでないので。
そこで、今回の場合。
小池には、著書も多く、テレビにも多く出演し、雑誌インタビューでの言動も多く残っているわけで、そこから情報収集を始めたところ、まったく辻褄の合わないことのオンパレードだった、と。
これはどうしたことか、と本人に取材を申し込んでも梨の礫である、と。
これは堪える。
学生でありながら日本航空に席があったことになっていたり、卒業した後の日付の追試に合格した体になっていたり、申請すればすぐに発行されるはずの卒業証明書を取らなかったり、卒業証書が男性文だったり、複数あったり、まだ発生していない中東戦争が怖くて結婚したことになっていたり、起きてもいない飛行機事故に遭遇しそうになっていたり、甥が途中で従弟になったり。
また、嘘とまでは言えないまでも、十日間の介護が自宅で父を看取ったという本になったり、46歳になってからの子宮摘出手術が自分は母になることが出来なかったという語りになったり。
一体これは何物なのかと。
それを突き詰めていたら執筆に3年半もかかってしまった、と。
著者は職業作家であって、別にかつて小池百合子に傾倒していたとか、彼女に一生を捧げたかったとか、それなのに裏切られた私怨があるとか、そういう背景があっての執筆ではない。
いわゆる暴露本とは性質が異なる。
実際に本の中でも編集者から小池をテーマにすることを持ちかけられて今回の仕事を始めたことが記されている。
職業作家としては、一つの本を仕上げないと正直なところ印税も入らないわけで、現存する公人の評伝の執筆・出版に4年近くもかかってしまったら、ちょっと、ねぇ。
日経の「私の履歴書」がどれくらいのスパンで書かれるのかは知りませんが、4年もかかるなんてことは無いでしょう。(ちなみにあれは「私の」となってますが、ちゃんと記者・ライターさんが取材して書くそうです。)
乗りかけた船だから最後までやり遂げたものの、次から次に出てくる嘘とそのための検証に、途中、ちょっとこの虚言癖の女、勘弁してくれよ、という思いはあったんじゃなかろうかな、と。
書き上げる対象は故人では無いので、取材はしやすいはずである。
また、公人でありその来歴もつかみやすいはず。
そんな思いで始めた仕事のはずが、思わぬ方向へ進んでしまった、という。
いや、それは逆恨みだ、と言われればその通り。
返す言葉もない。
ただ、本人の語るもののうちに、何一つ信じられるものがないというところから始めなければならないのは、取材をしてモノを書く側からしたら相当なストレスであろう。
そうした背景と著者の置かれた環境にも思いを馳せながら、本書を読むことをお勧めする。
以下、本書を読んでなるほどと思った点。
池坊保子さんの小池評
「よく計算高いと批判されるけれど、計算というより天性のカンで動くんだと思う。(中略)無理をしているわけじゃないから息切れしないんだと思う」
安倍さんが稲田朋美を防衛大臣に据えた背景
「都知事選の最中、小池は何度となく、「女性初の防衛大臣」、「任命してくれたのは安倍総理」だと自分の経歴を誇らしげに語った。安倍はこうした小池の発言を不快に思い、その記録を上書きしたいと考えて、寵愛する稲田を防衛大臣に起用したのだろうか。」
それでも小5のときの校内弁論大会で小池が優勝したときの題が「嘘も方便」だったとは、出来すぎじゃなかろうか。
すべてが終わった後、その一生を、宮部みゆきあたりに小説で振り返ってほしい。
こんな人間が、首都の知事を務めただけでなく、総理の座を狙った時代があったのだ、と。
コメント
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