長谷川晶一『名将前夜』読了。
長谷川さんの野球本です。
本作のテーマはノムさん。
それも自身が立ち上げたリトルシニアのチーム「港東ムース」についての物語です。
副題は「生涯一監督・野村克也の原点」というものです。
でも、このチームを立ち上げる前に、南海のプレイングマネージャーをしていたので、監督業の原点というのは少し語弊があるかな、というのはあります。
それでも、後のヤクルトでの飯田の外野コンバートや古田へのベンチでの説教などにはこの港東ムースでの運用にその原型がある、という書き方はなるほど刺さりますね。
港東ムースのことは、昔テレビで見たことがあります。
ノムさんの立ち上げたチームというよりは、サッチーのチームという位置づけで紹介していました。
サッチーがアウトドアチェアにふんぞり返って座り、選手に「腰を入れて振れ!」みたいなことを叫んでいた映像でしたね。
多分にテレビ向けの演出もあったのでしょうが、そういうチームで野球はやりたくないなぁ、なんて当時の自分は考えたのでした。
なので、ノムさんが主体となってできたかなり歴史の浅いチームということは本書で初めて知った事実です。
それでも、須永英輝の母親の言うように、月に5000円の月謝でほぼ毎日プロと同じ場所・設備で練習できる環境を用意してもらえるなんて、夢のようではあります。
当時のサッチーの資金調達力はものすごいものがあったのだな、と。
まあ、それがズレて脱税とかいう道に入ってしまったのでしょうけれども…。
自分のチームの子ですらない井端にいきなり電話をかけてきて高校入学の斡旋をしたりとかいうやり手なエピソードもあれば、派手な指輪をしたまま子どもたちを殴るので、容易に鼻血が出る、みたいな漫画のようなエピソードもあります。
90年代というのは、それなりに体罰への風当たりはあったと思うのですけれどもね。
総じて、ノムさんのエピソードがその指導力に唸らされるものが多い一方で、サッチーのそれは、ひどいけれども憎めない人となりを示すもので、それがまた抜群に面白い。
ま、犯罪者なんですけど…。
GG佐藤がテレビで、「自分の進学先はサッチーが決めた」と言っていましたが、こういうことだったのですね。
というか「GG」の由来がサッチーの付けたあだ名だったとは…。
それにしても全国大会で四連覇を果たしたほど強いチームであっても、後にプロ入りし、なおかつそれなりに結果を出した選手となると、本当に数えるほどなんだな、と。
才能があっても、すんなり結果が出る人は一握りで、様々な出来事があって、そうはうまくいかない人生を送る人のほうが圧倒的に多い。
本書でノムさんが子供時代の自分と重ね合わせたであろう存在として取り上げられている田中洋平さんもその一人でしょう。
彼の人生を下敷きにして、本書の内容を映画で見たいな、と感じました。
彼自身が、プロには進まなかったというところも含めて映画向きな感じがします。
『トキワ荘の青春』でも、漫画家としては大成しなかった寺田さんが主人公でしたしね。
90年代のヤクルトを覚えている人なら読んで楽しい一冊。