映画『PLAN75』

映画『PLAN75』視聴。

タイトルにもなっている「PLAN75」という制度。
75歳以上であれば誰でも安楽死を選ぶことが出来て、行政がそれをサポートしてくれる、というか推奨している、というものですが、それが淡々と導入されている平行世界でのお話です。

制度設計についての描写なども含めてかなり細かく、そのリアルさに見ながら顔が歪んでしまいます。
ドリフの「もしも○○が✕✕だったら」シリーズのようなお笑い路線でもなく、「世にも奇妙な物語」のようなオチに怖さを持ってくるようなお話でもなく、その制度がある日常を淡々と描いていくのですね。
もちろん、こんな制度があったとしたら、という前提の時点で出オチなのですが、２時間弱も引っ張れるだけのリアリティがあるのです。

特に市役所勤務の若手公務員であるヒロム（磯村勇斗）の日常が、まったく有り得そうな普通の公務員の一日です。
市役所の中で事務まわりや制度紹介の窓口業務に携わるだけでなく、時には街なかに出て特設ブースを組んだり。
寒空の下、炊き出しを行う横でこの制度を紹介するのぼりやポスターには「あなたの最期をお手伝い」という、いかにもお役所的なベタなコピー。
あくまでも業務として、淡々と制度を説明する姿がかえって地獄です。

ですが、そんな業務中にしばらく音信不通だった自分の叔父と遭遇してしまったところからストーリーが逸れ始めます。

上司の「三親等か。じゃあ担当できないな。」なんていうセリフもリアルで、実際にそういう制度が導入されたら、おそらくそうなるだろうなぁ、なんて思いながらまた顔が歪みます。

実際に安楽死を行う現場が出来たとしたら、部外者があんなに楽に入り込める空間にはなっていないでしょうし、ましてや容易にご遺体を外に運び出せる作りにもなっていないでしょう。

ただ、ご遺体になったからこそ連れ出したい、という気になったというのも理解できるのですね。
生きているうちに連れ出したら、面倒は見ないといけないわけで。
まあ、彼にもそこまでの覚悟はないでしょう。
あったのなら、叔父さんがそこまで落ちるまで放置はしていません。
亡くなったからこそ、最期は自分の手で火葬・埋葬してやりたい、という感情が湧き出てしまった。
そこがまたリアルですね。

一方の主人公ミチ（倍賞千恵子）さんのラストは、さてこれからどうしよう、という気にさせられ、後味は悪いです。
夜明けの太陽を見つめながらのラストですが、決してそれは希望の陽ではなさそうで。
仕事も住処も失い、身よりもなければこその「PLAN75」の申請だったわけで、安楽死に陥る寸前でそれを取りやめたからといって、その状況が変わるわけではありませんからね。

自分たちの未来がこんなに暗いものだとは思いませんが、そうしないためのゲームチェンジャーは何かと言われると、ＡＩとかロボットとか、そっちだろうなぁ、と感じる今日このごろ。

河合優実が演じるのは、PLAN75申請者が自身の最期の時を迎える日まで利用できる、業務として1回15分の会話をしてくれるコールセンターの担当員です。
でも、そういう業務なんて優秀なＡＩを搭載したチャットボットで代替できるだろうし、なおかつそれは別に15分に限定する必要もなさそうです。

我々の老後は、ChatGPT搭載のロボットに会話のキャッチボールの相手をしてもらっての暇つぶし、ですね。
え？今既にそんな感じだって？