鈴木涼美『YUKARI』読了。
源氏物語を題材にしているそうですが、済みません。
どのあたりがオマージュなのか、あまりよくわかりません。
教養がないと、こういうところで楽しみが減りますね…。
というわけで源氏物語云々を抜きにして本書を解説しますと、30代を迎えるまでに無事男を捕まえることに成功し歌舞伎町から上がることになったキャバ嬢が、その報告がてらいろいろな相手に送る直筆手紙を7本まとめてみた、という体の小説です。
その送付先は、高校生時代の少し危うい関係になりかけた教師だったり、ホステスと客という関係以上になった医師だったり、結婚が決まった後に出会ってハマった若手ダンサーだったり。
無論、婚約者への手紙もありますが、実はそれが一番面白くない。
でも、それで良いのですね。
生涯の伴侶とは、面白かったり刺激的だったりする文章で繋ぎ止めて置かなければならないような関係ではありたくないものですから。
7本の手紙のほとんどは、自分から相手に一方的に送りつけているものです。
基本的には自分語りで、それを通して読者は主人公の人生をなんとなく感じ取れる仕組み。
相手からの返信を期待していない形式の文章です。
むしろ何本か書き連ねている間に返信が来たことに本人が驚いた文面もあるほどです。
でもですね。
相手によって、自身の人生についての語りが変わってくるのが本作品の面白いところでしょう。
解釈が変わっているのみならず、関係そのものが都合よく変わっていたりするのです。
若手ダンサーとの関係について、他の人への手紙には彼とは一晩限りの関係でその後は向こうからの連絡を無視しているわ、私もうすぐ人妻になるのだもの的な記述があったかと思えば、その当人への手紙には、会う約束どころか連絡もくれないなんてつらい日々を過ごしたわ、迎えに来てくれたらすべて捨ててあなたについて行くのに、みたいなことを書いていたりします。
相手の反応を気にせずの自分語りなので、気分や感じ方だけでなくナチュラルに妄想も入り込んでくる様が、なんというか夜の女性の真に迫っていてゾクゾクします。
夜の女性にとみに多い、ような気がする。
客ごとにストーリーが変わる。
ええ、それ自体はまあ良いのです。
あまり賢くないと、同じ客相手なのにいつの間にかストーリーが変わってしまい、すべて興ざめになったりすることもあったりしますけれども…。
でも、そういう「お話」のニーズは、実はあまりないのでしょうか。
本日(2024年4月30日)時点で、アマゾンではレビューがゼロ。
出版からはもう数カ月経っているのですが。
キャバ嬢のお話は、女にとっては何かを言いたくなるほどのものではなく、男にとっては現地で体験する以上のものを知りたくなるほどのものではない。
そういうことでしょうか。
でもこれもまた、芥川賞を取ったりなんかすれば、一気に状況も変わるのでしょう。
将来の受賞を祈りながら読む一冊。