藤原良『M資金』読了。
どうもこの手の話は新庄耕さんのジトっとした筆致で書かれるべき、みたいな思い込みがこちらにもあり。
ノンフィクションとはいえ、カラッとした文体でサラッと読み終えてしまいました。
本書に収められているのは、必ずしも「M資金」詐欺ではないものもあります。
ただ、M資金的なストーリーというか、嵌め方というか、そういう典型みたいなものはあるのでしょう。
というか、そういう話を中心に著者が取材をして本にまとめた、ということなのでしょうけれども。
雛形としては、「旧日本軍の隠し財宝を種銭として運用されてきたM資金は、日本経済の発展のため、または危機打開のため、選ばれた事業家に融資をすることで日本経済を救ってきた。そして今回、あなたがその融資先に選ばれた。」というもの。
資金の出どころが皇室だったりGHQだったり産業革新機構だったり、と変形しますが。
話を持ちかけられた側が「やっぱりあったんですね。」みたいな反応を示す、というのは、なかなかに興味深いです。
我々の世代からすると、旧日本軍の資金という言葉でどうして詐欺が発生するのか、という疑問はどうしてもでてきます。
しかし、そう考えるのは若いからで、上の世代になればなるほど、有り得る話として受け止められてしまう、というのもなんとなく分かる気もします。
それから、詐欺の題材としては、若い人相手には仮想通貨とかのほうが引っ掛けやすいみたいな話が載っていますが、まあ、そうですよね、としか。
日本の高度経済成長はM資金が支えていた、という話を真面目に信じている在日の人の言葉が本書にもあります。
そういう単純な理解の是非は置いておくとしても、「あなたは選ばれし融資先です」というのは、響く人には響くのですね。
だからこそ、普通ではありえないストーリーであっても、功なり名をあげた人こそ被害者になりがちで、かつ被害額も大きい、と。
特殊詐欺(旧オレオレ詐欺)の被害者は同情を買うのに、M資金詐欺の被害者にはまったく同情が集まらないのも、このあたりにあるのでしょう。
傍から見たら、何が悲しくて山下将軍の秘宝が鴻海を通じてシャープに流れ込まないといけないのかわかりません。
荒唐無稽にも程がありますが、今なら、東芝を救うための資金が密かに運び出されたり、TSMCの熊本工場の実質的な資金の出し手はM資金だったりするストーリーが、どこかで拡がっているかもしれません。
本書では、実名で書かれる引っかかっちゃった勢はコロワイド蔵人・ローソン玉塚のみですが、読む人が読めばそれとわかる形でそれ以外にも複数あげられています。
それを当てていくのも面白いです。
そこそこ大きな額が動く詐欺のネタが、高齢者しか反応しない「M資金」だというのは、高齢化社会も行き着くところまで行き着いた感があります。
高齢者に富が偏在した結果、詐欺のネタの出どころが80年前の戦争ですよ、と。
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