燃え殻『それでも日々はつづくから』読了。
燃え殻さんのエッセイです。
週刊新潮の連載コラムを纏めたものとのこと。
話を持ちかけられたとき、担当編集者の方から「週刊新潮の読者層はかなり上」であることを言い渡されたものの、従前の週刊SPAのときと比べてそれを意識したものを書ける自信がなかった旨を吐露しています。
本文を読めばまったくその通りで、SPA時代と比べて文章に読者層の違いを意識した風は感じられません。
それでも読んでいて明確に違いを感じるものがあって、それはなんとなくですが気分がそれほど沈んでいないのですね。
なんとも言語化しにくいのですが、自分がエッセイとして読んだ前三作での様子に比べて、日常のなかで塞ぎ込みそうになりそうなときに、それを乗り越える、というかやり過ごす術を身に着けたのかもしれません。
といっても、本作に載っているものは、あんまり社会人としては褒められることではないですけれども。
例えば、特に悪びれることもなく打ち合わせをすっぽかして温泉に逃避したり。
以前、うまくいかないとき、爪切男さんに一晩中話を聞いてもらう、とかいう贅沢技を披露していましたが、毎晩爪切男さんの時間が空いているという保証はないですからね。
自分一人でできる術は必要なわけで。
あとはそれに加えて、もしかしたらウイズコロナ的な日常にも慣れてきて、そう塞ぎ込むことも無くなった、みたいなこともあるのでしょうか。
相変わらず本職は休職気味だったりするわけですけれども。
それでも、コロナ以降、クレームを言う人が増えたような気がする、という考察をしている燃え殻さんは、それをメタに眺めていて少なくともクレームを発しがちになった当事者ではないのです。
コロナ禍でそれまでのように思うようにいかなくなった人が増えた一方、もとからうまく行っていなかった側代表みたいなところのあった燃え殻さん的にはむしろ気分が軽くなったみたいなところはあるのかもしれませんね。
読んでいるこちらも、とどのつまり「それでも日々はつづくから」と言われてしまえばすべて片付くような気がしてしまい、まあ、これは燃え殻流のマジックワード。
こうして、大して報われることもないロスジェネだって日々を生きているのだ、的な。
それでも女にはモテるんですねー。
昔話も交えていますが、定期的にワンナイトできるくらいにはモテていて、いや、40過ぎてワンナイトも無かろう、というのはありますが、こういうところは普通の陰キャとは違うのですね。
そういう業界人仕草みたいなところが、ロスジェネの負け組のようでいて、必ずしもそう分類しきれない、彼の魅力なのでしょうけれども。