遠藤貴『代理人は眠らない』読了。
日本におけるサッカー代理人の草分けのような方のようです。
帯には、おそらくリバプールの街でしょうか。
遠藤航と二人で並んで写った写真が載っています。
爽快な表情なので、リバプールとの契約を済ませた後の写真かもしれません。
その下には遠藤航の言葉として「10代の頃から思い描いてきた夢を一緒にかなえることができました!」とあります。
本書は、著者の半生を追うことで、そのまま日本におけるサッカーの代理人ビジネス、また日本人選手の海外展開の歴史がわかるような流れになっています。
確かに最近は、日本人選手が海外へもしくは海外で移籍をする際、理解に苦しむ移籍というのが減ってきたと感じます。
以前は、本田がオランダからステップアップするかと思いきやモスクワのクラブに行ってしまったり、香川がマンUに移ったはいいけれどちょうど監督が変わったタイミングでポジションも約束されていなかった、みたいなことがあり、もうちょっとどうにかならなかったのかと思うことが多かったですよね。
中田もペルージャでは活躍できたものの、ローマでは当初から目されていたとおり結局トッティの控えという位置づけを超えることはできず、パルマでもなんとなく尻すぼみ。
ボルトンではベンチ入りすら出来ず、あの2006年のワールドカップの後は、そろそろJに戻ってくるかと思いきや「旅人」になるとかいう選択。
親身にキャリアを考えてくれる代理人がそばに居たなら、ああいうキャリアにはならなかったでしょうし、あんな投げやりなプロ人生の終わり方なんていうのもなかったのでは、と思うのです。
そこから数年経ってクラブワールドカップの中継のゲストに呼ばれた際、明石家さんまに
「ヒデ!お前今何やってるんだ?」
「あ、いやその僕はまだ今は旅人として…。」
「働け!」
みたいなツッコミをされていましたが、自分を見失って時だけが過ぎてしまった感は痛々しかったです。
ファッションはキメているだけに余計に。
それに引き換え、最近の選手たち。
遠藤にしたって今回のリバプールへの移籍はもとより、湘南を振り出しにした国内からベルギー・ドイツを経たステップアップの仕方だったり、ザイオンがマンUのオファーを蹴ってまでしてシント・トロイデンに進んだりと、何というか熟れているのです。
10代20代の選手の目線なんて今も昔もそんなに大差ないでしょうから、選手に寄り添いキャリアという観点から俯瞰できる優秀な代理人がつくようになったことの現れなのでしょう。
前園が自身のYouTubeチャンネルで現役時代を振り返り、当時は代理人制度も無かったし、移籍金の決まりも無かったし、移籍の話は直接クラブ(当時のフリューゲルス)に来ていたから握りつぶされていたものも多かった、みたいな話をしていましたが、そのあたりの整備が為されたのがこの30年ということでしょう。
著者はその第一人者というかさきがけで、ひょんなことからこの世界に飛び込むことになるのですが、そのきっかけとなった川口能活とのエピソードがまた素晴らしい。
そういえばあの頃の能活は、確かに代表戦があれば戻ってくるし、所属には「ポーツマス」とあるけれども、それ以上の情報って無かったよな、と。
現地の試合で活躍したとかこんなプレーをしていたとか、そういう情報はほとんど聞きませんでしたよね。
あれは別に「やべっちFC」の映像契約の都合の問題では無かったのですね。
実際まったく試合に出ていなかった。
そしてその背景にはそんなことがあったのだな、と。
本書の中盤ではFIFAやUEFA、イングランドでの法制度の解説も入るのですが、結構目が滑るというか、何度読んでも頭に入ってこない箇所もチラホラ…。
これは、著者の日本語の問題というよりは当該の制度そのものが悪魔的に難しいのでは、と。
逆に言うとそれらを熟知しているレベルでないと選手の人生を伴走できる代理人になどなれないのでしょう。
あと、最近はJを経ずに高校から直接海外クラブに進むケースも出始めていますが、これも本書で契約面から理解できました。
出身高校にお金が入るのですね。
海外クラブなら下部組織であっても契約に伴いお金が入るとなると、出身高校の側もJのクラブよりも海外を視野に入れがちになるのは致し方ないことかな、と。
プロ野球の世界では、裏金ではそういうことはあるのかもしれませんが、表立った契約書に本人ではなく出身校にお金が入る条項が盛り込まれることはないでしょうから、随分と違う世界です。
著者の青春譚としても代理人ビジネスの成立史としても楽しめる一冊。