黒澤はゆま『戦国ラン』読了。
合戦跡地をとりあえず走ってみるという、まず企画ありきの戦国本です。
場所は、大阪夏の陣、本能寺の変、石山合戦、桶狭間の戦い、川中島の戦いの五本立て。
実際に現地を走ってみることで、このルートは通ってないのでは?、とかこれはキツい!、とかいうのが肌で感じられるわけで、これは企画の勝利。
著者の黒澤さんが、体を張ったなりの結果は得られています。
でも、本書の本当の面白さは「ただ走る」ではない点。
実際に現地を走りだすまでに、いろいろな文献から当時の状況を分析・解説が為されていて、これが小説とも研究書とも違う口語体で心地よいのですね。
想像をたくましくするだけの作家調とも、古文書を紐解くだけの研究者調とも違う、独特のトーンです。
大阪出身ではないのですが大阪で長いこと仕事をしていたとのことで、自分をさらけ出して笑いを取るというか、そういうカルチャーが自然と身についたのでしょうか。
この分析の部分だけでも本として成立したと思うのですが、それだとありきたりな戦国本として埋もれてしまうということでしょうか。
つくづく作家さんも大変な時代です。
昔、とあるイベントで作家志望だという学生に会ったことがあるのですが、「調べ物が大変なので歴史モノはやらないです。」と公然と言い放ち、こちらが微妙な思いをしたことがあります。
もしかしたら表情にも出ちゃってたかな。
今後、そういう輩に遭遇したら「黒澤さんは調べるだけじゃなく、現地を走っとるよ!」と返すことにします。
ちなみに件の彼が、今どこで何をしているのかは知りません。
本書で一つ難を言うと、掲載されている地図には、文中に出てくる地名があまり多く示されておらず、少し解説が図では頭に入ってこなかった点。
結局グーグルマップを参照しながら読み進めることになったりしました。
著者は今も大阪で暮らしているとのことで、大阪の話になるととたんに細かくなるのはご愛嬌。
普段生活をしているところだと、走らないまでも距離感が手にとるようにわかるというのはありますよね。
そういう意味でも、歴史好きの方には、人生のうちで京都に住んだ経験があると、歴史モノの話を読んだり聞いたりするときに優位性は出るのでオススメ。
よそ者なので数年で良いですが。
太平記でも義詮が、「四条西洞院で合戦が始まりましたが四条大宮まで押し返しました」と尊氏に報告する場面がありましたが、聞いただけでスケール感は掴めますからね。
で、著者の黒澤さんには続編を希望したいのですがよろしいでしょうか。
ええ、中国大返しをですね。
全区間走破していただきたいな、と。
どうやっても無理だ、という結論ならそれで良いのです。
やっぱ秀吉、あの話、盛ってない?となるだけなので。
実際に走ってみて、どのあたりが盛っていて、本当はこの区間をこの日数でかけたのではないか、みたいなことを書いてほしいな、なんて。
ま、勝手なことを言っております。
すみません。