燃え殻『断片的回顧録』

燃え殻『断片的回顧録』 評論

燃え殻断片的回顧録』読了。

ある一年の燃え殻さんの日記の出版です。
4月1日に始まり3月30日で終わっています。
年が書いてありませんが、6月28日付の箇所に『これはただの夏』の連載を始めたことが記されているので、これは2019年。
つまり、2019年4月から2020年3月までの一年の日記ということになります。
コロナ前の燃え殻さんの日常。
たしかにあの作品も、コロナ前のひと夏のお話でしたね。

タイトルに「断片的」とあるとおり、まったく脈絡のない文章が日付とともに書き記しているだけです。
とはいえその契機になる出来事みたいなものは、まちなかの雑踏に身を置いているから起きたのであろうことも多いのですね。
なので、たとえ業界の人でも、今ではこんな風に、無防備にいろいろな人と出会ったり喫茶店に通ったり旅に出たり、そんなことは難しいのだろうなぁ、と。
コロナ前と比べると、唐突な出会いも、伏線回収はないけれどもそれだけで面白く切り取れるはずのシーンに巡り合うことも、劇的に少なくなっているのではなかろうかと、心配をしてしまいます。

それらの何ということのない出来事が、燃え殻さんによって言語化される様を我々は楽しんできたわけですけれども。

そんな読者がいることを知ってか知らずか、ネットで伏線回収がきちんとなされていない映画への批判記事を読んでもやもやしたことを日記に書いています。
これは自身の作品には、それほどそういう技巧が無いことへの言い訳の類かもしれません。
でも、私は、人生への臨み方、言葉遣い、そういったものに惹かれて燃え殻作品を読んでいるので、伏線やその回収は期待していません。
なので、そこは気にしないで欲しいなぁ、と。

個性がなくても死なない。
伏線がなくても話は出来る。
テレビを見て終わる一日もある。
人はみないつかは死ぬ。

人生の後半戦を、こじらせないで過ごすための処方箋になる一冊。


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