常井健一『地方選』

常井健一『地方選』 評論

常井健一著『地方選』を読む。

脈絡のない全国各地の町村選7つを追ったルポだが、よそ者なりにしっかりと潜り込んで、接触できる限りのすべての候補者に密着してその構図・背景・主張を整理してまとめている。
その切り口が、少しばかり左がかっているのがたまに気になることもあるが、基本的にライターの世界はそういう人のほうが多いので、そこは仕方ない。
というより、読めば読むほど、著者がそれぞれ単純に保守対革新、右対左、という図式では切り取れない部分を丹念に取材した後が見て取れるので、それらが前面に来る限り、彼の思想性は気にならない。

それにしても、やっぱ直接選挙で首長を選ぶって楽しいよねー。
アメリカも選挙人制度を使ってるから、完全な直接選挙とは言えないのかもしれないけど、あれだけ盛り上がるのは直接選ぶからだろうし。
それによる弊害もあるんだろうけど、これは最上のエンターテインメントだと思う。
田舎であればあるほど、娯楽として消費される面は否めないでしょう。

一方、選挙とは現代の戦争であり、首長選であればなおさらのこと、文字通り国盗りの戦であるので、それが引き起こす分断だとか対立だとか、無い訳はない。
関ヶ原の合戦も、近くの丘ではおにぎり持参で戦見物をしていた農民がいたように、はたから見れば面白いものでも、当事者にとっては人生をかけた大勝負だし、それに巻き込まれれば無傷ではいられない。
選挙後や、それぞれの取材先の前回の選挙後を扱った箇所では、そういった田舎ならではの陰湿さも含めてその負の側面も描かれている。
著者としては、そういう日本の田舎の閉鎖性っていやよねー、というノリで書いた部分も若干あったかもしれない。
でも、このところ毎日アメリカの大統領選での混乱を見せられていると、日本じゃ住民同士の監視はあっても殴り合いはないだろうし、発砲事件なんてありえないし、日本の政治システムは町村レベルまで見ても随分と洗練されているよね、と世界に向かって誇りたいくらいな気分になってくる。

そもそも、全国の町村では、現職の再選率は84.2%だそうだ。
当然、複数の候補者が出なければ選挙は発生しないし、実は約半数が無投票当選だとのこと。
また、選挙が行われたとしても、現職が有利であることには変わりない。
それにも関わらず、無風だったところに敢えて対抗馬として立候補するのは「変人」だが、その変人が登場するには背景があったとする、そのストーリーの描き方が、各章とも秀逸。
章によっては戦国時代の村同士の諍いにまでさかのぼっているところもあったりして。
選挙が発生するにはそれなりの事情がある。
そして、その結果次第では、住民の間に分断が残る。
けれど、本書に書かれてある限りでは、選挙が行われることになったから分断が起きたというより、それによって可視化されただけ、とかいうことも多いようで。
その背景は、もちろん千差万別だが、失われた30年を経て、それまで地元の名士とされていた家でも家業が傾いたとか、産業構造が変わったことで色々な矛盾も出てきたとか、やはり高度成長期までの物語が全国津々浦々に至るまで崩壊したことが伺い知れる。

また、大間町のように、原発で潤っていた町が、ぱったりと計画が止まったことにより、すべてが目詰まりを起こし始めたがゆえの悲惨なケースもあれば、農業・漁業による豊かさを背景にした権力構造への反発がその発端となっている中札内・えりものケースなど、置かれている環境もそれぞれ異なり、単純に衰退する地方への眼差しで読むと梯子を外されると思う。
北海道の人々の強かさ、赤い大地と呼ばれるほど革新系の政治家が強い背景などが勉強になった。
補助金頼みではない豊かな町村は、やはり強い。
国会議員とは陳情するものではなく、顎で使うものという意識ですね。

それぞれ事情が違う7つの事例の話なので、最後に少し強引に著者自身が総括しているが、面白かったのは、首長選で現職へ挑戦するとしても、いわゆる地盤・看板・カバンのいずれも持たない候補者が当選することはまずない、という点。
単純に「しがらみがない」政治を訴えるのが有効なのは、田舎を捨て都会に出てきた者たちが集まる都市部の選挙だけなのだと再確認。

もちろん我々も、無党派層の風、みたいなもので世の中を変えてはいけないのは、民主党政権で学んではいるわけですが・・・。

常井健一の本

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