佐川恭一『就活闘争 20XX』読了。
佐川さんの描き下ろし小説でテーマは就活。
以前、『清朝時代にタイムスリップしたので科挙ガチってみた』を読んだ際、「学歴へのこだわりとリビドーが抜けたら、この著者はどういう筆致になるのか」と書きましたが、今回は就活がテーマということでそう来たか、という感じです。
本作の舞台は近未来の日本ですが関西がベース。
Z社という電通をもっと大きくした企業が就職偏差値の最高峰にある世界線で、そこへの「就活」がメインストーリーです。
で、なぜ関西がベースなのかというと、このZ社の本社が大阪なのですね。
こういう設定にせざるを得なかったところに佐川さんが本作を書いた際の格闘の跡が見られます。
学歴を基としたマウントゲームを基軸に就活を書くならば、その延長線上として社会人生活の物語があって然るべきですが、佐川さんには例えば湾岸を舞台にしたタワマン文学的なストーリーは書けないわけですよ。
当たり前ですが彼自身は彦根市出身の京大出なので、東京の細かい序列は分からないし、ましてやそれを文学作品に仕立て上げるのは難しい。
というわけで、設定を近未来にして日本の中心もいつの間にか関西に移っていた、みたいなことにしておくのは良策でした。
でも、だからといって関西の序列が細かく記述されているかというとそうでもなく、そこは読者層に配慮したところはあるのかもしれません。
関西で弄るのはせいぜい関関同立と京産くらい。
X(旧ツイッター)を見ても、学歴厨の基準はどうしても関東圏がメインになります。
なので、登場人物もそれに準じてくるのは仕方ないところでしょうか。
けれども、作中に早慶上智やMARCHは出てきますが、どうしても表面的な記述になってしまうのです。
慶應内部での格差とかの話も無いし。
このあたりは佐川さんの実体験に基づく話の膨らませ方の限界かもしれません。
MARCHのカードゲームは面白かったですが、元ネタはX(旧ツイッター)で見たような気がしますね。
そういえば大宮開成では体育祭の組分けをG・M・A・R・C・Hにしているとかいう話です。
事実は小説よりエキセントリック。
そんな学校に子どもは入れたくないものです。
エピローグはZ社の社員となった主人公によるクーデター話ですが、これもサラリーマン生活を通してなにか新しい考えが生まれてきたとか、ビジネス上のアイデアが出てきたとか、そういう類のものではありません。
単に、入社前の違和感を抱えたまま数年を経て、当初から思い描いていた事に臨んだ、という体で中身が少々薄い。
主人公が社会人になってどう変化したか、という記述は皆無なので。
佐川さん自身に組織で働いた経験があまりないのかな、という気はします。
であるならば、このエピローグは余計で、せいぜい入社式で反旗を翻したくらいの終わり方で良かったのでは、とは思いました。
佐川さんの次回作を心配しながら読む一冊。