黒川博行『騙る』読了。
どこまでが本当かわからない、古美術の世界の物語が6編。
どいつもこいつも欲得ずくで動く胡散臭い輩ばかりなのですが、それら登場人物のほとんどが関西の言葉なので、そんな彼らのしょーもない欲望も、なんとなくほんわかしてしまうというか、ギラギラ感が薄れます。
よろしおすなぁ。
必ずしも主人公としての登場とは限りませんが、どの作品にも美術雑誌の編集長(ただし会社のNo.2)という人物が出てきます。
話によって、騙され役だったり騙し役だったり騙された人の敵を取る役だったりするのですが、彼がまた魅力的。
高血圧の薬が欠かせないでっぷり太った中年という設定なのですが。
ホストに入れあげた姪っ子のリベンジに肩を貸すくらいには義侠心はありますが、本業では売買の仲介で双方に黙ってサヤを抜いたりとかは日常茶飯事。
でも、彼の行動の原点は何なのでしょう。
別に身内だから救ったというわけでもないのは、詐欺師に騙されたボンボン社長に仕返しの方策を授けたりしていることでもわかります。
最終話の地面師の話は犯罪に関わることなので、少し毛色は違いますけれども。
ただ、読んでいて彼のそんな行動に違和感は無いのですね。
自分はこういった古美術の世界にはまったく縁がありませんが、付き合いのある限りの世界でいうと、割と関西の不動産屋さんにこういう感じの人が多いような。
不動産屋なのでみんな欲深いは欲深いのですけれども、欲オンリーではないのでどこか憎めないというか。
これが東京の業者になると、欲深いだけで愛想もなく、頭の悪さも隠しきれていない、みたいなつまらない人間が多くなったりします。
おもんないねん。
まあ、得てしてそういう人間はこちらの記憶にも残らないので、後に名刺を取り出してみても顔が思い出せない、みたいなことが多々あります。
仕方ありません。そういうものですね。
そんな共通項もあったりする古美術と不動産の世界ではありますが、もちろん違うところもあります。
やはり、対象そのものに魅力があるかどうかというのは結構大きな違いと感じます。
本書でも、騙しを仕掛ける立場でありながら、習作に惚れ込んでしまう様とか、そういう少なくとも美・伝統に対する畏敬というか、そういうものは不動産にはありません。
「不動産は立地がすべて。」
と言ったとき、それは単に将来に渡る貨幣価値を鑑みた上での物言いであって、そこに美学的な価値があるとかいう話では無いですからね。
本作でも「地面師」は出てきますが、3Dプリンタを駆使して贋作を作るとか、細工はそういう方面で直接的です。
それでも計画が露見するのは、その贋作の出来栄え以前のところで、それが売りに出されるまでのサイドストーリーに不自然な点があったりとかで、まあ、そのあたりは不動産の場合と同じ。
相対の商取引は、クリックひとつの証券取引とは決定的に違うものですね。
古美術に関心のある人にも不動産な人にもオススメの一冊。