野口悠紀雄著『データ資本主義 21世紀ゴールドラッシュの勝者は誰か』を読む。
野口先生も今年で80歳。
あんまり多くを期待してはいけないのでは、
などという先入観で読み進めると、ビッグデータ界隈の現状をかなり広くキャッチアップしていてその博識ぶりに驚かされる。
技術の話になってもディープ・ラーニングについては、データサイエンスの入門本ほどではないにせよ、一通りプログラムの仕組みについては理解した上で簡単な説明もされている。
このあたり、そこは十分わかっている、という理系諸君には受けが悪いかもしれない。
そこに先生ならではの新しい分析・解説があるわけでもないので、読んでいてまどろっこしさはあると思う。
先生から聞きたい話はそれじゃない、と。
アマゾンの書評では、総花的だが深い洞察がない、という指摘も多かったように見えるが、どこかで聞いたことではあっても、ポイントは押さえた内容は以降に続く。
GAFAの寡占は、必ずしも金にあかせての伸張ではなく、ユーザーである個々人から無料で提供されたデータの集合体からなるわけで、そこに旧世紀の独禁法などの仕組みで制約を課すのは実情にそぐわないこと。
チャイナの芝麻信用や運転技術などを反映した自動車保険の仕組みなどの例を出し、個々人のモラルなどに頼らなくても、信用スコアを気にする個人の振る舞いで社会が回る仕組みができつつあること。
相関と因果を取り違えるな、ということを叩き込まれた世代には違和感が残るが、人間には理解できない根拠付けでのAIの判断を正しいとして採用するならば、理論駆動科学からデータ駆動科学への移行が発生していることになること。
ただ、先生の一番言いたいことについては、多分に政治的になりすぎるので、最後まで断定的な言葉遣いは避けている。
ビッグデータが機能するためには個人の情報の吸い上げが必要。
西側世界ではそれは一定の歯止めがかかるが、チャイナにはそれはない。
だから、その特殊性に気をつけましょう。
というところまでである。
隔靴掻痒感は否めないが、政治本では無いので、それ以上は書かないのである。
そこを、物足りないと感じるか、大人の振る舞いと感じるかは読み手次第、といったところ。