千葉雅也『エレクトリック』

千葉雅也『エレクトリック』 評論

千葉雅也エレクトリック』読了。

1995年の宇都宮での物語。
神戸の震災やオウムの事件は完全にテレビの中での出来事です。
それらを横目に描かれるのは、高2である主人公の性の目覚めというか、ゲイの目覚めというか。
インターネットでゲイカルチャーにも触れるなどする一方で、飯島愛のビデオでも興奮したりと、自分はそっち側の人の性指向はあまりよくわからないのですが、必ずしも一直線にそっち側に進んだわけではないのだな、というのがわかります。

前著の『オーバーヒート』には、上京した後にはっちゃけてしまった彼の思い出が綴られた作品もありましたが、本書はその前日譚とでも言うべきでしょうか。

まだそっち方面では表立っては動きはなく、日常生活の出来事にも触れながら、地方都市での高校生のまったりとした生活が綴られます。

まったりした中でも学力での序列をかなり意識していて、「県トップの高校に通う自分、県立2位の高校を出た両親」、と何度と無く触れています。
わざわざこういうことを言うのが栃木県民っぽいとも思いました。
栃木県民といっても自分が知るのは宇都宮高校出身の人間がほとんどなので、そもそも偏りはあるわけですが、こういう人間は確かに多かったですね。

自分は受験生時代に大宮の駿台に通っていたのですが、そこには新幹線で高崎や宇都宮から通ってくる生徒がいて、そこには当然宇都宮高校の出身者がいました。
で、なぜかこういう序列を特に気にする奴が多かったように思えます。

「オレよりレベルの低い奴が行く学校なのに」とか「頭が悪いクセに」とか平気で口にするのです。

同じ新幹線組でも、前橋高校とか高崎高校とかいったあたりから出てきた群馬県人はあまりそういうことは言わないのですね。
栃木の人だけが異様に序列や自分の扱いにこだわる。

最初はそこで出会った奴らがたまたまそういうタイプだっただけかとも思ったのですが、どうやらそうでも無さそうだということも、駿台の授業で教えられました。

というのは、今は東進ハイスクールに所属しているようですが、当時は駿台英語科の人気講師だった今井宏師が、栃木人にはそういったあまり褒められない態度が公の場でも出てしまうことが多いのを、よく授業でネタにしていたのですね。

彼自身が東北出身だということもあるのでしょうが、栃木人のイントネーション(今でいうU字工事のあの感じ)でおちょくっていました。
例えば

「「東北線だとダサい。あっちが高崎線ならこっちは宇都宮線と呼ぶべきだべ~。」なんて言ってね。結構でございます。東北をバカにしているつもりなんだろうけどね。あんたら仙台の人口知ってるのかね。」

「「あっちには快速アーバンなんてものが出来たべ。こっちにも作ってもらうべ。」で快速ラビットだって。ラビット!アハハハハ。結構でございます。うさぎ小屋に帰っていただきましょうw」

なんていう具合に。

あの授業の後の宇都宮高校出身の面々の苦虫を噛み潰したような顔の並びは今も覚えています。
そういう傍から見たら滑稽なまでの偏狭なプライドというのか、そういうのがありました。

ちなみに著者は本書の中では「JR宇都宮線」と書いていて、あのロンダリングが成功した後の世代かもしれません。

自分が物心付いた頃は大宮駅のホームは「東北線」表記でしたが、いつからか「宇都宮線(東北線)」という微妙な表記のシールがその上に貼られるようになりました。

あれが栃木県人からのポリコレ的な訴えから来た修正なのだと知ったのはだいぶ経ってから。

今はどうなのでしょうか。
本書のように「宇都宮線」とだけ表示されているのでしょうか。
今も両名併記なのに本書が「JR宇都宮線」としているのだとしたら、それはそれで栃木県人仕草ではありますが…。

それはそれとして、90年代、インターネット勃興期の地方都市の高校生の有り様を見て取れる一冊。


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