井上章一・青木淳『イケズな東京』読了。
何かと話題の日文研。
その所長である井上先生の本。
正確には建築家の青木淳さんとの共著。
「京都ぎらい」の井上先生を連れてきて、二匹目か三匹目のどじょうを捕まえたいという編集者の目論見は、コロナによってかなりの部分が潰れてしまったものの、対談で進めたかった部分を往復書簡形式にしたりして、頑張ってなんとか一冊に纏めてみました、という本。
ただ、書名の「イケズな東京」は少々タイトル詐欺。
事前に想像していたのとは違い、特に東京のイケズなところを全編に渡って書き連ねた、というものではありませんでした。
「京都ぎらい」のあの感じを求めるなら、手に取るのはやめたほうが良いです。
副題が「150年の良い遺産、ダメな遺産」とあるし、建築家の方との共著なので、東京の150年の都市開発とか建築物の問題点が載っていそう、という期待感はありましたし、本書を企画した方の当初の意図もそのあたりだったんじゃないかなー、とは思うのですが。
別に東京じゃ150年しか歴史もないし、京都に比べたら語るべきものも少ないよな、とかいうのではありません。
なんとなくそんなに感情がこもっていないというか、まあ、率直に言うと、井上先生にとっては、特に東京に強い思い入れは無いのでしょうね。
京都、それもその周縁部の人間として、京都に対してのおどろおどろしいまでの情念が、素晴らしい文体として昇華していた「京都ぎらい」シリーズとは違って、あくまでも遠目で見ている東の都のことを少し語っている程度。
それでネタが尽きたのか、中盤以降は著者のふたりとも、パリの街並みとかヨーロッパの美術館の話とか大阪万博の建物とか、まったく制限のかからない文章が続きます。
本来はすべて二人の対談形式でやりたかったのでしょうし、編集の方になるのかわかりませんが、司会進行役が東京に関する話題になるようにうまく誘導していく方針だったのでしょうけれども、コロナ禍ということで対談の回数も限定され、紙幅の殆どは交互に原稿を書きあう、みたいな形に。
体裁としては二人の往復書簡的なものになっていますが、やりとりが続いているという感じでもなく、双方がスペースを埋めるがごとく好き勝手なことを書いている感があります。
それぞれに面白いことは書かれていますが、タイトルからすると違うかなー、と。
「西東京市」とは何事だ、みたいな小ネタでは相変わらず笑わせていただきました。