恩田饒『実録 バブル金融秘史』読了。
表紙に載っている著者の肩書は「元大和証券常務取締役」というもので、そこが著者にとっての最高地点ということですね。
大和でMOF担として仕事をし、業界での知人も多い立場からのバブル裏面史とも言える内容です。
銀行や不動産から見たバブルの話は多いですし、リテールで顧客を嵌め込んでいた末端の証券マンの話もそれなりに聞きます。
最近になってのバブル本としては、銀行の中の人の話で言えば國重惇史さんの『住友銀行秘史』、証券市場そのもののバブルについては、運用会社側から見た近藤駿介さんの『1989年12月29日、日経平均3万8915円』などがあるでしょうか。
でも、証券会社のMOF担の話というのは意外と新鮮です。
当然に大和のことは詳しいです。
そして大蔵官僚はもちろんのこと、業界での顔は広いので、象徴的な事件の登場人物についても、直接的な知り合いでなくとも一言はその人となりを書いています。
でも、それはそれで読む人が読めば面白いのかもしれませんが、世代的にどうしてもそこまで興味があるわけではないので、ああそうですか、で呼び飛ばしてしまいがちでした。
「筆者も○○社の▲▲さんは✕✕の頃から付き合いがあり知っていた」みたいな話が続いても、「お顔が広いんですね」以上の感想は持ちにくいわけです。
著者は1934年生まれとのことで今年で89歳。
本来なら日経の「私の履歴書」に書きたかった内容なのでしょう。
でもそれも叶わなそうなのでこうして一冊にまとめた、という感があります。
大和は、山一のように潰れたわけでもなく、野村のように業界トップだったわけでもなく、そして著者はそこで社長にまで上り詰めた人というわけでもありません。
日経でコラムを書いたりしたことはあるようなのですが、「私の履歴書」には届かなかったようです。
本当に失礼なこと言ってますけど…。
で、旅立つ前に思いの丈を書き記しておきたい、という趣の書なのだろうと思いますが、ご自身の体験談だけでは一冊にはならず、すでに出版物で得られる情報をまとめたり、それでも足らずに「バブル金融秘史」なのにライブドアショック、リーマンショックの解説まで入り、最後には失われた40年を嘆くという展開。
また、網羅性を高めようとしたのでしょうが、当然ながらそれらすべてがご自身の体験談というわけでは無いので、公開情報をなぞっただけになっているものもあり、いくつかの案件については、自分が昔、勤務先で当事者たちから聞いた情報とも違っていたりします。
つまり、全然「金融秘史」じゃないじゃん、という感想を持ってしまうのです。
とはいえ、好き嫌いが出てしまう著者自身によるキーパーソンについての人物評を脇に置くとしても、一通りバブルの事件については押さえているので、一冊読むだけで証券業界視点でのバブルの総括は学べます。
経済部記者が書くノンフィクション的なスリルや、会計士が会計の立場から問題を追う知的興奮みたいなものはないので、そういう方面の面白さを求める人からすると期待外れになります。
利用法を間違えなければ役に立つ一冊。