映画『恋は雨上がりのように』

Ａｍａｚｏｎプライム・ビデオで映画『恋は雨上がりのように』視聴。

タイトルからはまったくスポーツの気配はありませんが、陸上競技を怪我で一度挫折した主人公（小松菜奈）が、もう一度立ち上がるまでの物語ですね。
競技一筋で生きてきたところに、アキレス腱の断裂という競技生命の危機を迎え、自暴自棄になりかけたところ、バイト先のファミレス店長（大泉洋）の気遣いに救われ、そしてその彼に恋をしてみた、という経路がクローズアップされてのタイトルです。

人生の節目の、得てしてそういうときの心の隙間にふと入り込んできてしまう存在ってありますよね。
それは本当は恋なんかではなかろうというのは、多分人に言われなくても自分がよくわかっていて、それゆえにそれを指摘されるとムキになって否定したくなるというか。
３０近くも歳が離れた相手であれば尚更のことです。

しかし、ムキになって向き合った結果、小松菜奈も大泉洋ももう一度自分の夢を見つめ直し、それに向かってみる未来を選択する、という流れです。
主人公にとってはそれが陸上競技で、店長にとっては小説家になるということでした。

作品を通して徐々に明らかになりますが、店長は大学時代には文芸サークルで小説を書いていた流れから、一時は本気で小説家を目指していたとのこと。
それが元でバツイチ。
その夢を完全に諦めたわけではないのでしょうが、仕事を終え帰宅してから向かう机には白紙のままの原稿用紙。
筆が進まない、という絵ですね。
最初、今日日、文章を原稿用紙に書き付ける人なんているのかなー、なんて思いました。
でも、そういうわかりやすい絵があることで、部屋に訪ねてきてそれを見た旧友から、小説家になるという夢について「未練ではなく執着」があるから大丈夫だと励まされるという回収につながるのでした。
たしかに、ＰＣにエディタが立ち上がっていて、その画面に空白が目立っていたところ、それを覗き込んだ旧友がそんなセリフを吐くという流れは想像できませんからね。
ちなみにその旧友、学生時代の同期ですでに小説家としてデビューしているという設定ですが、TEAM NACSの人で思わずニヤリ。

それにしても、小松菜奈も清野菜名も山本舞香も、陸上競技の絵が様になっています。
走り方も完全に競技者のそれで、普通に大会で記録を出していそうなフォームですよね。知らんけど。
映画化にあたり、そういう人を選んだのでしょうけれども。

昔SMAPの面々が大学の駅伝のメンバーだったという設定のドラマがありましたが、茶髪なのは百歩譲ってヨシとしても、フォームがまあひどかった…。
SMAPありきのドラマなので仕方ないのですが、作り手もそれをわかっていたのか、走っているシーンでも、引きの絵はあまりなかったですね。
ほとんど顔を中心としたアップ。
それでも前傾なのがわかってしまうという…。

話がズレました。
怪我をした陸上競技人の話でした。

人生を賭けていたものを断念したときに出来た心の隙間。
それを埋めるべく恋愛に走ろうとしたものの、相手の気遣い、身のかわしのおかげで、道を踏み外すことはなく、それどころかもう一度競技と向き合うようになります。
そこで一つ鍵となるのは、実は断念するほどの怪我ではなかったのでは？と観客に思わせるくだり。
具体的には、同じ怪我をした後に復活した他校の後輩（山本舞香）に、「なぜ競技をやめたのか」と主人公が煽られるのですが、このあたりは実際のところはどうなのでしょうね。
リハビリ次第で、以前と同じレベルまで回復できるのかどうか。
あるいは館山が触れていましたが、トミージョン手術のように、手術の結果、以前より球が速くなる、みたいな現象が起きたりすることもあったりするのでしょうか。
この場合は、怪我以前よりもタイムが縮む、ですが。

断裂系の怪我というと、我々の世代では巨人の吉村を思い出してしまいます。
栄村との衝突で担架で運ばれたのも当時よく映像で流れていました。
その後、復活までの日々は、日テレを中心に再起不能の怪我からの奇跡の復活みたいなストーリーで推されていました。

でも、ある時フジテレビのスポーツ系のバラエティ番組だったか、体操の森末慎二さんが出ていたときに、
「うーん、靭帯が切れただけですからねぇ。体操じゃそんな大した怪我じゃないですよ。一年くらいはアレですけど。」
みたいなことを言って、スタジオの空気が微妙になったのを覚えています。
森末さんは、場を盛り上げるために多少盛ったコメントが出る癖もある人なので、少し割り引かないといけないでしょうし、復帰まで一年というのは、長いといえば長いわけで、大したことないということはないと思います。
でも、日テレが言うような再起不能の怪我というものとは違うのかな、という印象を持ちました。
この一件、少年時代の自分がマスコミ不信になった一因というと大げさですが、まあ、そういう心根にはなりますよね。

とはいえ、本作の場合、主人公は高校生です。
高校生活三年間のなかでの一年というのは、三分の一ですからね。
例えば、３年生になってからこの怪我をしたら、もう卒業までプレー機会はなし、ということになります。
大学・社会人でも競技を続ける、という選択が無いとすれば、というかほとんどのプレーヤーはそうなるのでしょうが、その時点で競技者生活は終わるわけで、唐突に人生の幕を閉ざされたような感になるのは当然。

その心の隙間に、バイトだったり恋愛だったりが入り込み、人並みの高校生活の楽しみを覚えても、別に咎められるものでもないですよね。
ただ彼女は、周りがそれを許さないレベルの才能の持ち主で、彼女自身もまだ

ラストシーンでは、チームでジョグ中の主人公と移動中の店長が、川沿いの堤で偶然出会い、立ち止まって言葉を交わします。
そのときの主人公の涙はどこからきたものでしょうか。
絶望から這い上がることの出来た自分に対してなのか、その時を支えてくれた店長への感謝なのか、それを踏まえてまだ思いがあるということの確認だったのか。

Ｕ－ＮＥＸＴ、ｄＴＶでも観られます。