姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』読了。
姫野さんの作品を読むのは『青春とは、』以来二作目になります。
執筆は本書の方が古いのですが、今回これを手に取った理由は、某書店で「東大生協で話題沸騰!」みたいなポップで平積みになっていたからです。
結構前の本のはずだけど今も話題?、とか思いながらページをめくり始めたら止まらなくなりました。
自分はもう娘を持つ親なので、どうしても主人公の一人「美咲」の親になった気分で読んでしまい陰鬱になります。
昔、自分が妻と交際を始めた頃、義父が「東大の男は止めておけ」と猛反発をしていたようなのですが、それを思い出しました。
幸い?妻は親のそんな助言には耳を傾けず、私と結婚したわけですが、その頃も自分は十分に不遜で、どうしてそんなことを言われなければいけないのか、と不思議に思っておりました。
今なら一人の娘の親として、わかります。
自分の娘が見下され続けるとしたら、親としてそれは受け入れがたい。
自分も、今や自分の娘の交際相手を考えるなら、よほど中身を精査した上でなければ東大の男はお勧めできませんね。
特に、こんな男たちに捕まったら一生が不幸です。
本書で描かれる加害者グループは、いかにもな大学デビューの理一・工学部(院)生です。
そういう意味では、そんなイタさも含めて数は少ないかもしれませんが、いなくは無いかな、という印象です。
女子大生相手に元素記号で山手線ゲームとか言い出したシーンでは、共感性羞恥でゾワゾワしました。
そんなゲームの結果、女の子に思ったのと違う反応が出たから困ってその子を脱がしてみた、とかもうヤバすぎてヤバいです。(語彙力)
酔った勢いもあり、素人童貞ならぬ東大童貞(東大ブーストでしか女を抱いたことがない)を拗らせて犯罪行為に手を染めてしまいました、というわけですね。
読みながら顔が歪みます。
世が世なら自分もそうなっていたかもしれない、という思いとともに。
まあでも、自分はこんな奴らとはつるまなかったか、とも思いますが。
うちの父親が勤めていた会社の同期で、家が近所ということもあり家族ぐるみで付き合いのあった一家がいました。
数年前、母親がそこのお母さんと何かのコンサート会場で会ったのでお互いに近況報告をしあったそうです。
そこの娘さんは、文一・法学部からの財務官僚という男と結婚したのですが、モラハラが激しく結婚生活が破綻している、と。
でも、離婚とかいう話になるとあっちはあっちでものすごい弁護士を立ててきそうで、それも難しい、と。
まあ、どこまで本気の話なのかわかりませんが、東大出の男は結婚相手にはよろしくなかったわね、という結論になったようです。
X(旧ツイッター)上でもタワマン文学でも、学歴によるマウントは見られますが、逆側の嫌悪感みたいなものはなかなか出てきませんね。
蔑まれる側の言葉というのは言語化されにくいし、たとえそれが出来たとしてもSNS上に載せるところまではいかないのでしょう。
人は誰かにマウントを取るためにこそSNSを使いますが、取られるためには使わない。
あるとしても別の軸でマウントを取り返すくらいのもので。
美咲もまた、自分をモノ扱いをしたその悪意・蔑みを前には言葉を失うしかなかったわけです。
だからといって何も感じなかったわけではなく、だからこその加害者グループに対するあの示談条件だったのでしょう。
でも、彼女の感じたことのすべては、蔑む側には裁判を経ても届かない。
それぞれの後日談で淡々とそれが露わになるので、読後感も最悪です。
犯罪としては、強姦でも殺人でもないので、加害者グループの面々が受けた罰は付随した社会的制裁も含めその程度が適切だったのだろうとは思います。
でも、加害者の間でもその後の人生はそれぞれで、元々海外の院に進む予定だったから中退するのなんて屁でもない、とかいう奴もいたりして、それはそれでやるせないですね。
よくある東大内部にもある格差社会の現実ですが、それはまた別の話です。
とりあえず娘が大学に入るときまでには、本書と『あのこは貴族』をセットで渡しておこうかな、と。