CDB『線上に架ける橋』読了。
ツイッターを始め、Web媒体でよく名前をお見かけするCDBさんの評論集。
ご自身は、横浜・川崎方面に出没する高卒の非正規労働者、と名乗っていらっしゃるのですが、文体からはあんまりそういう感じは受けないんですよね。
サブカルにかぎらず文学や哲学の教養も深い、というのも一つにはありますが、何よりあまり自分のことを語らないというか、底辺アピール仕草的なところがないのです。
『花束のような恋をした』の批評でようやく「麦」的なるものと「絹」的なるものの対比から、自身の境遇も絡めての筆致になるのですが、それも殊更自分のアピールに使っているという感じはありません。
単純に、世の批評家たちの文章は、根っから「絹」的世界に生きた人のもので、「麦」の側から見える世界について触れてないよね、という指摘の中で出てくるに過ぎません。
というわけで、読めば読むほどCDBさんの人となりに興味が出てきてしまう本でした。
サブカル方面の知識は『エヴァ』あたりからグッと深くなっているので、こうったカルチャーにハマり始めたのが90年代。
とすると、年齢としては吉田豪さんの一廻り下くらいでしょうか。
豪さんに比べると、音楽よりは映画や舞台の話が多いですね。
実際に映画館・劇場に足を運んでの文章が多く、必然と作品と真摯に向き合った文章が並びます。
上演後の観客の反応も頻繁に文章として載っています。
それもあってか、作品についてネガティブな文章がありません。
ネガティブなことを書かないのはそれらと向き合っているがゆえでしょうが、少なくとも作品として上映・公演されているものにケチを付けることはしない、というのがポリシーなのかもしれません。
コロナ禍以降、まったく映画館に足を運ぶこともなくなり、専らVODでの消費がメインになって、自室で見ただけの作品をあれやこれや腐している自分が恥ずかしくなったりもします。
ちなみに、自分がもっとも感銘を受けたのは映画『劇場』についての分析。
私は原作を読んでいないので、咲希が「ごめんね」とつぶやくエンディングを自然に受け入れたのですが、あれは映画オリジナルなのですね。
二人は別れないという原作での結末について、別れるエンディングにすることを条件に松岡茉優は仕事を受けたのではないか、という指摘をされています。
もちろん推測の域を出ませんが、各所のインタビューでの彼女の発言を挙げながら、(というかそれらを拾ってくるCDBさんの熱量もすごい。)そういうこともあろうかな、と思ってしまいます。
というかですね。
私もあの二人は別れるエンディングであるべきだと思いましたですよ。
自分も、そうだったから納得して感動した口ですから。
原作は別れないエンディングだったと聞いて、又吉には主人公を女性に甘えさせすぎだろ、と言いたくなりました。
というわけで、松岡茉優の賢明さも知れた一冊。
コメント
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