話題の『LIFESPAN(ライフスパン): 老いなき世界』を読む。
前半は著者シンクレア氏の説く「老化の情報理論」についてを、付随する遺伝生物学の歴史、彼自身の自伝を交えながら解説している。
この理論の面白さは、老化とはエピゲノム情報の喪失である、としている点である。
なんて、いきなり書かれても難しいですよね。
私も、いろいろググりながら理解した口です・・・。
実は私、大学受験は物理・地学でしたので、化学も生物も中学生レベルの知識なんですよね・・・。
(それすらも少しずつ薄れていってますが。これって老化現象?)
なので教養課程の生物の授業では、ほとんど死んでました。
化学の授業はほとんど物理の延長みたいなものなので何とかなったんですが、生物はまっったくわからず。
授業の担当は後にノーベル賞を取る大隅先生だったんですけど、当時は、陽気なヒゲオヤジ、という感じで、ありがたみはゼロ。
テストも赤点でしたが、お手紙書いて単位をもらいました。
いい先生でした、はい。
余談はさておき、私なりに「老化=エピゲノム情報の喪失」説の背景というかそれに至るまでを整理してみます。
結構分厚い本なので、途中読み飛ばして結論だけ知りたい人もいると思うので。
まず、生体情報には、デジタル情報たるゲノム情報とアナログ情報たるエピゲノム情報があるそうです。
前者は細胞核の中の染色体に入ってる塩基の鎖(AGCTの4種類のあれですね)の組み合わせの話なのでデジタル情報。
デジタル情報なのでコピーが容易、とまで言うと語弊があるのですが、まったく同じ配列のものを作ってクローン牛とか羊とか猫とか、よくニュースになってましたよね。
つまるところ、同じものを作ることは可能、ということです。
また、デジタル情報なので生まれてから死ぬまで同じ情報を保持しています。
この情報の中身ですが、全身のあらゆる部位の遺伝情報です。
全身どこの細胞をとってみても、同じ情報が入っている。
個々の細胞の個々の染色体の中に、全身のあらゆる情報がそれぞれ埋め込まれている、というのは驚きです。
山中教授のiPS細胞が、どの細胞にも使えるというのは、こういう事情があるからですね。
それに対して後者のエピゲノム情報は、個々の細胞において、その中のゲノム情報のどれを使うかを選ぶ機能をもっています。
個々の細胞の中にすべての部位の情報が入っているとしても、個々の細胞がそこの場所で機能する細胞を作るのに必要な情報はごく一部です。
例えば眼球と心臓とでは、求められる機能も動きも違うわけですが、個々の細胞がそこで細胞となるためには、それらの情報を取捨選択してその場所にマッチしたものにならないといけません。
そのための指針をこのエピゲノム情報という形で持っている、ということです。
それらが、体の中のここではこういう形の細胞になりなさい、とか、こういう働きをする細胞になりなさい、とかいう指示を司るわけですが、こういう条件のときはこうしなさい、という形式のものなので、若干アバウト、というとニュアンスがずれますが、まあ、アナログなものになるわけです。
ここで、細胞分裂をおこして新しい細胞が生まれるときのことを考えてみましょう。
まず、古い細胞から新しい細胞への遺伝情報の伝達は、前者のゲノム情報をコピーするだけなので、デジタルコピーで済みます。
それから、エピゲノム情報から特定の条件をアナログ的に感知して、細胞ならしめるわけです。
このときエピゲノムによる情報の取捨選択がうまく行かない、つまり完全じゃないコピーが発生したとしたら、どうなるでしょうか。
元の細胞とは少し違うものが出来てしまいますね。
それが積もり積もると・・・?
これが「老化」なのではないか。
著者はこう考えたわけです。
また、そこから一歩進めて、このコピーが完全になるように手助けできないものだろうか、それには何を細胞に与えれば良いのか、という観点から研究をしたのですね。
外部からの何らかの働きかけで、これがうまくいくようになるはずだ、というのは信念に近いものだったと思うのですが。
で、研究結果として、そのコピーがうまくいくために外部から与えると良い化学物質だとか条件だとか環境だとかを見つけました。
そのなかで、まだ完全には実証されてないけど、多分これだと思うよ、というものを挙げています。
まだ断言はできないので、自分はこういう生活を送っていて十分満足してます、という形になっていますが、リストとしてはこんな感じ。
・毎朝のサプリ
NMN 1グラム
レスベラトロール 1グラム
メトホルミン 1グラム
・食生活上の注意
砂糖・パン・パスタの摂取量を極力減らす。
デザートは食べない。
1日2食
植物をたくさん摂る。
哺乳類の肉は避ける。
・数ヶ月ごとのチェック
血液を採ってバイオマーカーで成分チェック。
最適値を外れていたら、食事・運動で修正を図る。
・日々の行動での注意
階段を使う。
ジムに行く。
タバコは吸わない。
電子レンジにかけたプラスチック、過度な紫外線、レントゲン、CTスキャンを避ける。
日中と就寝時は、涼しい場所に居る。
BMIを23~25に保つ。
アマゾンでこの本のページを開くと、読む前からNMNのサプリをオススメされましたが、こういうわけでした。
うっかりするとそういうセールスの本かと思ってしまうわけですが、著者は「特定のものを推薦することはない」としています。
その筋では有名なのかもしれないですが、自分としては今まで聞いたことのないサプリでしたので、この本の売らんかなのマーケティングとも合わせて、最初は懐疑的でした。
でも、読み終わった今となっては、何らかは飲んでみてもいいかな、という気にはなりましたよ。
ただ、問題はどのサプリを飲めばよいのか、ですけどね。
アマゾンでは、NMNと打つとそれなりに出てくるんですが、サプリの本場アメリカのiHerbのサイトに行くと、NMNでも正式名称のニコチンアミドモノヌクレオチドでも、出てこないんですよね、そのものずばりのサプリが。
これはどういうことなのか、と。
もちろん、少し検索すればアメリカにもNMN単品を販売しているサイトはたくさん出てきます。
アメリカだけじゃなく中国でもね。
でも、信用のおけるところから買いたいじゃないですか。
なぜiHerbでは売ってないんでしょうね。
単に、NMNは高級品なのでこのサイトでは取り扱わない、とかだったら別に良いのですが、そういうことでもなさそう。
もしかして、まだ有効性が承認されていないから、とかその手の理由だったりしないかな、と。
というのは、iHerbの商品検索で「NMN」と入力したときに、出てくる商品リストでは、これに近いサプリは出てくるのです。
例えば、これ。
成分としては、
ニコチンアミドリボシドクロリド 300 mg
トランスレスベラトロール 150 mg
と書いてある。
先ほどの著者のリストでは、摂取しているものとして、NMN、レスベラトロール、メトホルミンを挙げているので、レスベラトロールが入っているのはOK。
で、ニコチンアミドリボシドクロリドってやつは、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)とどう違うのか?
そして、実は本の中では以下のように書かれています。
(ここではニコチンアミドリボシドクロリドはNRと略されています。)
私は毎日、一般の人たちから「NRとNMNではどちらの効果が高いですか?」と訊かれる。
NMNはNRより安定しており、マウスの実験では、NRを使った場合には見られない健康効果がNMNには確認されている。ただ、マウスの寿命を延ばすことが実証されているのは、前述の通りNRだ。NMNについては試験を進めている最中なので、決定的な答えは出ていない。少なくとも今はまだ。
大方、大手のサプリサイトで取り扱わない理由はこのあたりにあるんじゃないでしょうか。
現状ではアメリカから個人輸入するにしても、出自のはっきりしたものを大手のサイトで買えるようになるのはもう少し先なのかな、と。
一方、アマゾンではどうでしょうか。
アマゾンにNMNと入力して出てくる商品リスト。
別にこの本のページの下にオススメで出てくるものだけではありません。
一ヶ月分10万とかいうものもありますねぇ。
どうなんでしょう。
気をつけなきゃいけないのは、NMNが入ってないのがありましたよ。
例えばこれ。
ブランド名が「NMNの恵み」というので、うっかりするとポチッとしてしまいがちですが、実はNMNは入ってないという・・・。
これ詐欺ちゃうの?
と思いますが、ブランド名をそうしているだけだから問題なし、という判断なんでしょう。
当然レビューでも批判がありますが。
あと別のサプリのレビューで怖かったのは、服用を止めたら老けた、というもの。
ストップしたら急に白髪や抜け毛が増えたとか。
いやー、こういうのを聞くと、ちょっとうかつには手を出せないかな、という気がしてしまうわけですよ。
ちょっと試しに、というので飲んでみたけど、合わないな、とか副作用とかを感じて飲むのを止めたら、一気に老けました、とか浦島太郎じゃないんだから。
そうすると今はまだ、実証されたベースのNRにしておいたほうが良いのかな、と。
牛乳にも入っている成分だっていうし。
一方、NMNは母乳に多く含まれているらしいですよ。
でも、それ、天然で飲む機会ってもう無いよね・・・。
あと、この本の後半は、人類が皆元気で長生きするようになったらどういう社会になるか、ということについての考察。
著者は別に社会学者でも哲学者でもないので、このあたりは話半分の理解で良いと思う。
街が老人で溢れるというディストピアを想起する向きからの批判を相当に受けているのでしょう。
弁解じみた文章が続きます。
しかし、老人が老害たる所以は、新しいことを受け入れられなくなったその頭の硬さと、年功序列であるがゆえに与えられた権力であって、アンチエイジングのサプリの効果で、頭も柔らかいまま、そして組織が必ずしも年功型でなくなるなら、ほとんどは解決する類のものなのではないかと。
このあたりは、私はそんなに悲観的ではありません。
とまあ、自身の健康とか老いについてまでも色々と考えさせられる本ではありますが、だからといって、すぐにアマゾンでNMNサプリをポチっとするのはまだ早いかな、というのが私なりの総括。
実際、軽くググると、2016年のWIREDの記事では、NRを作れるのは一社のみで、そこがアンチエイジングという怪しいビジネスを展開しているぞ、みたいなノリでした。
いやー、そこから4年しか経ってないのか、と。
だから、あと数年もしたら、NMNももっと安全なものが安く入手でき、そして副作用についても研究がなされてオーダーメイドとかされて、皆当たり前に飲んでいる時代が来ているかもしれません。
コメント
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