石井洋二郎『ブルデュー『ディスタンクシオン』講義』

石井洋二郎『ブルデュー『ディスタンクシオン』講義』 評論

石井洋二郎ブルデュー『ディスタンクシオン』講義』読了。

実は本書を買ったのは昨年(2021年)の正月で、「NHK100分de名著」の岸政彦先生のテキストと同時に買ったものでした。
テキストを買おうと思ったら、こちらもオススメされたというありがちなケースです。
放送とともに、あちらのテキストはさっさと読み終えましたが、こちらはだいぶ積ん読になっていました。

買うときには『ディスタンクシオン』を読み返すよりは楽かな、と思ってポチったのですが、まあ、他に読みたい本はいくらでも出てくるもので・・・。
気づいたら一年以上経っていたという。
ま、よくある話です。
自分にとっては、古傷を思い出すみたいなところもあって、そんな積極的に読みに行かなかったということはありますね。
本棚のなかで、『ディスタンクシオン』の横に置かれた本書をたまに手に取っては、「学生時代の記憶には、思い出したくないものと、そうでもないものがあり、これからもそれらを抱えたまま生きていくのであろう」、なんて感傷に浸るわけです。
そうするとなかなか進まない、と。

本家ブルデューの『ディスタンクシオン』を読んだのは学生時代。
岸先生も学生時代に貪るように読んだそうですが、自分もそれに近いところはありました。
学生生協で10%引きでも結構なお値段の上下巻二冊でした。

とはいえ、当時の自分の読みは、必ずしもブルデューの説いていた通りの読みではなかっただろうことは、自身を持って言えます。
というかかなり都合の良い曲解もあったかと。
それは、フランスの階級社会の話をそのまま日本に持ち込んで理解しても仕方ないとかそんな高尚な話ではなく。
別に社会学徒でもなかったので、用語についての理解がズレている、などのそういうもっと手前のところです。
「趣味と階級」と言われて、しばらくその趣味はホビーのことだと思っていました。
無論、結果としてホビーにつながることもありましょうけれども、その場合の趣味は「趣味が良い」とか「悪趣味」とか英語で言ったらテイストのほうですね。
でも、当時の自分にはそんなの関係なかったのですね。
なんというか、自身の境遇についての救いの書みたいな読みというのでしょうか。
言うなれば宗教書みたいな扱いですね。

とはいえ、日本では案外こういう読まれ方も多かったのかな、という気がします。
本書の著者石井先生も、先生の手によるあの日本語訳が、1992年の初版から数えてこの30年で20刷を超えたとの事実からも、90年代以降の日本の状況に応用が効くものとして消費されたからであろうことに触れています。

自分は学部生時代、第二外国語としてドイツ語修を選択したために、帰国子女がほとんどのインタークラスなんていうところに入ってしまったこともあり、大学の中でもかなり階層の上のご子息方と日々接することになり、どうにも話が合わないなどの悩みを抱えておりました。
恋愛方面でも、階層差を意識せざるを得ない失敗をしたりして、まあ、それは今から思うと階層は関係なかったような気もするのですがそれはそれとして当時はそう思い込んでいて。
そんなころに『ディスタンクシオン』を読み込んでいました、と。
結局、そうこうしているうちに、父親の勤め先が倒産して授業料すら出せない、という事態になり、そんなことで悩んでいる暇もなく予備校講師のバイトに勤しむことになったのでした。
そうすると、家計が苦しいがゆえに授業料免除を勝ち取れたことに加え、貸与とは言え奨学金と高額な講師バイト報酬とが預金口座に降ってきて、にわかにプチバブルが発生。
忙しい反面、資金的には余裕が出てきて「私」の根拠とは?みたいな悠長な悩みに襲われることもなくなったわけで、あれはあれで良かったのかな、と今では思います。

今日の目線でいえば、バイト漬けとか多額の(貸与型)奨学金とか、ゼロ年代の学生にとってはありふれたものになったものを少し先取りして経験していただけだし、学生生活を終えた後は、別に非正規雇用で苦しんだとかいうこともないわけで、まあ、単に若さゆえに世界が狭かったというだけ。

ちなみに奨学金はいよいよ年内に返済が終わります。
学生生活から離れて20年経つのだな、と。
あの頃、40過ぎの自分なんて想像もしなかったですけれども。
家庭も持ち、子どももいて。

話がズレました。
「ディスタンクシオン講義」の話でした。
本書は、ブルデューの『ディスタンクシオン』の日本語訳を手掛けた石井先生による初心者向けの講義という体を取っています。
日本で受容された背景の解説やピエール・ブルデューの生い立ちなどに触れつつ、ご自身の経験も踏まえながら『ディスタンクシオン』の各章を解説しています。
その中で、訳として気をつけたところとか、こうしたほうが良かったかも、みたいなところも率直に話しているのが面白いです。
たとえば、「卓越化」と訳したところは今日で使われるところの「差別化」で良かったんじゃないか、とか。
「文化的善意」というのは、上流階級に入りたい人が無批判・無条件にその文化を受け入れてしまうところの意味も含むからここはあえて「善意」と訳したんだ、とか。

いずれは『ディスタンクシオン』を読みたい、という人に手始めの一冊として適しています。
ただ、そもそも『ディスタンクシオン』自体は60~70年代のフランス社会についての実証研究の書です。
そこまでそれを知りたいわけではない、という向きには本書で理論的なところを吸収するだけで十分な気も。

NHKで取り上げられたことが間接的なきっかけとなって本書にたどり着きました。
で、その「NHK100分de名著」シリーズ。
実はその翌月の「マルクス」のテキストも長らく積ん読になっております。
こちらについては放送も見ておりません。
さて、こなすのはいつになることやら。

ブルデュー本

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