小田光雄・中村文孝『全国に30万ある「自治会」って何だ!』読了。
小田光雄さんの対談本です。
テーマは自治会。
小田さんと対談相手の中村文孝さんとが、自治会長を引き受けて遭遇したトラブルや問題点を通して、少子高齢化が進む郊外社会について考えてみました、というもの。
小田さんの本は、学生時代に『「郊外」の誕生と死』を読みました。
90年代の末でしたから、20年以上前ですね。
当時も、大学のセンセイというわけでもなく、本職の作家というわけでもなく、それでもこうやって好きなことを書いて出版できるなんて、こういう生き方っていいよなぁ、なんて思っていました。
飯の種が他にあることでしがらみなく言えることってあるはずなんだから、とわかった風なことを思う程度にはスレていたんですかね。
あれは、郊外をテーマにした書でした。
1951年生まれということでほぼ団塊の世代ですが、ご自身が村から街へと変わる、郊外化が進む最中を生きてきたことで、それを少しデータを整理しつつ俯瞰して見てみる、といった切り口が面白かった覚えがあります。
ちょうど、村上龍の『テニスボーイの憂鬱』を読んだころでした。
あれは地主側から見た郊外化の伸展に伴う生活の変化がテーマでしたけれども、その背景を説明してくれたというか、あの本でわかったこともありました。
ロードサイドビジネスの歴史とか。
テニスボーイは、親が売った田んぼで出来たお金で、ロードサイドにステーキ店を出したのが当たったのでしたね。
話がズレました。
今回は「自治会」の本でした。
で、郊外化が一通り進んで数十年。
そんな郊外の街でも、今や少子高齢化に伴う制度疲労というか、自治会でも問題が発生しているわけですが、自治会長を引き受けたことでそれらを間近で見て、色々考えさせられることがありまして・・・、というわけですね。
すでに会長の座は降りている二人なので、結論とかこれからの自治会への提言とか、そういう大上段に構えたものはありませんが、身近ではあるものの知らなかったことのオンパレードです。
とはいえ、やはり大家としては自治会とアパマンとの関わりについての章が一番気になりました。
小田さんは静岡県の自治会の話をしていますが、彼の地でも旧来の田んぼだったところが、レオパレス・大東建託・東建コーポレーションにダイワハウスと揃い踏み。
自治会費として集められる自治会の収入の半分近くがすでにアパマン経由だというのは、さすがに凄いの一言です。
新しく建つアパマンがどこの自治会に所属するかということが問題になるというのもわかります。
家主なり管理会社から自治会費がまとめて入っては来ても、入居者の内訳がわからないことや、自治会のごみ集積所を利用しているのに自治会費を収めていない物件があったりなどの問題点が挙げられています。
アパマンと自治会の関わりは、まずはゴミ問題で、その次に関わり方についてのこと、ということになるでしょうか。
指摘にあったように、物件外の自治会のごみ集積所を利用しているのに自治会費を払っていないというのは論外ですが、物件内にごみ集積所を用意していて、市役所と直のやり取りでゴミを片付けている物件の場合、大家としたら自治会費というのは払い損という感覚なのは事実です。
特に何のメリットもないという。
小田さんは自身の活動の中で、新しく建つ比較的大きな物件について、ディベロッパーに物件単体での自治会の立ち上げを要求したとありましたが、どのあたりのサイズからそういうことをすべきなのか、とか単身物件の場合はどうすべきか、とか、このあたりは議論は尽きませんね。
まあ、そもそも自治会費自体、別に法的な定めがあったりするわけでもなく、家の格などで会費の額が違っていたりすることも往々にしてあるわけで、本当はこのあたりから整理しないといけないのでしょうけれども。
本書のタイトルの通り「自治会って何だ!」という話です。
会費は、税金ではないが税金のようで。
昨今は役所の効率化の波に押され、従来にも増して市町村の下部組織になっている部分もあり。
政教分離は謳いながらも、活動のメインは神社のお祭だったり。
しかし、神社の祭礼も実はそのあたりの戦没者慰霊のイベントごとから始まっているものも多く、意外と歴史は浅かったり。
そういう活動が自治会を通して行われるということからも薄々わかるとおり、この組織は戦前の大政翼賛会に端を発していたり。
だからこそ、こういう組織は他の先進諸国にはないということだったり。
(ちなみに「愛の不時着」を見るに北朝鮮にはあるらしいというお話)
地方自治の分析をする本はよくありますが、自治会についての話を聞くことはほぼないです。
そういう意味でも、ダラダラと話が続いているだけのようでいて、なかなか普段聞けない話が聞ける一冊。