山田康弘『足利義稙』

山田康弘『足利義稙』 評論

山田康弘足利義稙』読了。

副題に「戦国に生きた不屈の大将軍」とあります。
大将軍だったのかどうかは別として、たしかに不屈の将軍だったことはわかりました。

ところで著者の山田先生ですが、以前レビューした『戦国期足利将軍研究の最前線』では現職が「小山高等工業専門学校非常勤講師」とあって、これは「小山工業高等専門学校」の誤植ではなかろうかと書いたのですが、本書では「東京・小山両工業高等専門学校非常勤講師」とあり、やっぱりあれは誤植だったのでしょう。

というか、本書刊行の2016年時点では東京高専と小山高専で教鞭をとっていた、というのは、曜日によって小山と東京と通いわけていたということでしょうか。
結構大変な生活だったのではなかろうかと。
だって東京高専って、「東京」って言ったって八王子の外れ。
最寄りは高尾の一つ手前の駅ですからね。
そこと小山高専。
どこに住んでいらしたとしても、通うのは大変です。
直近の書では肩書が小山高専だけになっているのは、そういう事情もあって片方を辞めた、とかなのかもしれませんね。

話がずれました。
足利義稙の話でした。
どうも義稙さんに関しては「義視の息子」以上のイメージがありません。
考えてみたら父が将軍でない、というのは相当なハンデだったろうと思うのですが、やはりそういう地盤や威厳のなさみたいなものが、最後まで尾を引いていた一生だったことがわかりました。
それは、タッグを組んだ細川高国が、細川家の人間ではあっても、細川一門をまとめ上げる血筋・力量はなかったということが、戦に負け続ける要因の一つでもあったのと似ています。
なぜそういう者同士でくっついたのか、と考えてしまったりもしますが、自身も傍流だと、例えば「政元が死んだぞ。いざ反攻!」といったときに頼る先も、傍流しかなかったわい、といったところでしょう。
なお、本書では高国が政元の養子の一人だったとは書いていないのですが、それはこの本が書かれて以降の研究成果なのでしょうか。
それとも学術的にはさほど明らかな事実ではないのか。
Wikiだと3人めの養子とありますけれども。

本書を読む前は、応仁の乱あたりから後、日野富子の振る舞いはわからないなー、と感じていましたが、本書の読後感としては、日野富子だけでなく、室町時代の人たち全般にその振る舞いはやっぱわからないわー、になりました。
自分の息子である義尚が死んだら、義視の息子の義稙を推す、というのもわかりませんが、その後それを追い出して、義澄を立てるのに加担するという。
どういう経緯があったのか、と。
本書では、まずは日野家の血を引く将軍をと考えて義稙を擁立したと解説され、そこは納得できました。
義澄は庶子である政知の子でなおかつ日野家の血を引いていない、と。
しかし、次に細川政元のクーデターで義澄が推されたときにはそれを追認していますからね。
行動が矛盾しているじゃないか、と。
しかし、本書を読むと、富子に限らずそんな前後に矛盾の多い行動を取る面々・事例は数多く散見されます。
義稙自身、高国を使い澄元と戦っていたのに、高国が負けたら澄元と同盟し高国を排斥。
しかし、澄元が死んで高国が勢力を盛り返し上洛すると、これを受け入れ、彼主催の猿楽の会にお呼ばれするとか・・・。

ちょっと戦国時代の感覚ともまたちがうというか。
やっぱり室町は特殊だ、と納得させられるエピソードが満載の一冊。

ちなみに、本書の中に旧○○御所とか旧○○宅みたいな写真がいくつか載っているのですが、山田先生が京都取材旅行に赴いた際に撮ったものですかね。
ことごとく何の面影もない普通のお宅だったり小さめのビルだったりになってますが。
まあ、こういうのも京都あるあるで、でもさすがに自分も池田屋事件の池田屋がパチンコ店になっていたのには驚愕しました。
元の本能寺が老人ホームになっていたのも悲しくなりましたが。
あと、以前に分譲マンションの売りが「第○代将軍足利○○公のお住いになった○○御所跡地!」というものもありましたね。
大抵のマンションポエムは蹴散らせるレベルのマウンティングです。
「御所に住まう。」みたいな。
まあ、キョービ、京都御所の中にマンションが建つ時代ではありますけれども・・・。
正確には敷地内の神社の土地の上に建つマンションでしたか。
さすがに定借でしたけど。
ライバルのディベロッパーの人曰く「毎朝、神主さんが入居者の方のためにお祈りしてくれるらしいっすよ。」
だそうで。
「でも、ことあるごとに御玉串を要求されそうだよね」と笑いあった記憶があります。
まあ、あそこの神社もお金が無いから借地に出したわけで。
いちいちのお玉串は面倒なので、そこは地代に込みになっていて、管理費と同時の自動引落になっていたりしないものでしょうか?

話が脱線しすぎたので今日はこれくらいで。

山田康弘本

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