万城目学『八月の御所グラウンド』読了。
直木賞受賞の表題作ともう一本が「十二月の都大路上下ル」。
いずれも京都を舞台にした物語です。
片方は陸上で青春している高一の女子が主人公、他方は爛れた学生生活を送っている京大の四年生が主人公です。
「Number」で、万城目さんが田中希実選手と対談していたので、前者のモデルの一部は田中選手かもしれません。
後者はある程度はご自身の学生生活を思い出したりもしているのかな、と。
ある意味『鴨川ホルモー』の三年後みたいなところもあります。
どちらも日常の描写からいつの間にか異世界が紛れ込んでくる様が素晴らしい万城目節。
万城目作品は、「鴨川ホルモー」の京都に始まり大阪や琵琶湖、はてはイラクと舞台装置が転々としましたが、本作で再びの京都。
これまた描写が微に入り細に入りリアルです。
「十二月の都大路上下ル」が冬の京都なら「八月の御所グラウンド」は夏の京都。
この過酷な四季をこれでもかと書き連ねます。
確かに高校駅伝のときって雪が降ることが多いですよね。
まあ、途中吹雪に見舞われても、ゴールする時間帯には晴れてたりするほど変わりやすいのが冬の京都の天候ですが…。
一方、あの殺人的な夏!
実を言うと、自分は京都に住んでいたころも真夏の時期は京都を離れておりました。
なので五山の送り火はリアルでは一度しか見ていないです。
なぜかKBSの中継番組では杉本彩が文化人枠で出演してたりして、こういう人生もあるんやな、なんて感想を持ったり…。
話がズレました。
まあ、それくらい夏の間ずっとあの街で過ごすのは正直しんどい。
本作ではそんな夏と冬の落差が作り上げる人間性をこんな文学的な表現に落とし込んでいます。
夏の殺人的な蒸し暑さと、冬の無慈悲な底冷えの寒さを交互に経験することで、京都の若者は、刀鍛冶が鉄を真っ赤になるまで熱し、それを冷水に浸すが如く、好むと好まざるにかかわらず、奇妙な切れ味を持った人間刀身へと鍛錬されていく。
いやいや、きれいすぎますって…。
ま、数年で京都からいなくなった人間が言うことではありませんけれども。
御所のグラウンドには、子供のサッカー教室で毎週通っていました。
夏は蚊が多くて困った記憶。
鬱蒼とした森の中にぽっかりと広場がある感じなので、たしかに異世界と繋がっていてもおかしくはない。
というか、それってフィールド・オブ・ドリームス的な感じですけど。
「それを作れば、彼がやって来る」
ではなく、
「その時期に大会を開けば、彼がやって来る」
というのが本作のオチでした。
8月というのは終戦を迎えた季節でもあり、死者が帰ってくるお盆でもあり。
いやー、こういうのが直木賞なのですね。
というわけで万城目さん、受賞おめでとうございます。