映画『老後の資金がありません』視聴。
原作からは中盤以降の展開をかなり改変していますが、より今日的なテーマに寄せたような感はあります。
シェアハウスでの共生に希望を持たせるというのは、原作時点ではなかった視点かもしれません。
あと、原作で自分が想起していたのに比べると、主人公の主婦が天海祐希さんでその夫が松重豊さんというのは、かなり見栄えが良くなっていますね。
このお二人だと、いくらコンビニ店員のパートや交通整理の仕事をしている様を見せられても、あまり生活苦な感じがしてこないのですが、まあ重くなりすぎても救いのない展開になってしまうので、これはこれで良いのかもしれません。
映画の冒頭にテレビを通じて荻原博子さんが家計不安を煽ってきますが、そもそも原作が出版された段階では、老後2000万円問題などというのは言葉としても上がっていませんでした。
時代が作品に追いつき、そして映画化にまで至った、ということでしょうか。
そしてさらに言えば、コロナ禍を経て現実はよりヘビーになっているかもしれません。
というのもこのお話、老後資金のはずの1200万円がみるみる減っていく、という悲喜劇なのです。
そもそも1200万円も持ってません、というのが、もしかしたら現実のマジョリティになっていたりするのではないかな、と。
昔、森永卓郎さんが「年収300万円時代」というワードで注目を集めたとき、300万というのは底辺の意味だったと思います。
ところが30年を経て、今ではその数字は正社員待遇のノーマルで、むしろ高嶺の花的な意味合いを持つようにすらなってきています。
確かに、東京郊外の核家族で子ども二人。
夫は正社員で妻はパート。
そして夫の勤め先は倒産。
まだ持ち家のローンも残っているのに、という平成期のあるあるをなぞったような本作は、すでに今ではあるあるですらないのかもしれません。
将来の昇給も前提としながらの夫の収入をあてにした自宅購入と、家計を助けるレベルに留まる主婦のパート。
考えてみたら相当にいびつな家計の設計ではありました。
それが普通ではなくなるというのは、それ自体は自然な流れだったのかも知れません。
男女とも貧しくなることで男女平等が果たされたというわけですね。
でも、だからといって夫婦共働きで自宅はペアローンのそれぞれ5000万ずつのローンを抱えてのタワマン住まいとかいうのも、それはそれで危うさを感じてしまったり。
まあ、幸せのカタチはひとそれぞれだし、すでにそういうところから降りてしまった人間が言うことでは無いのですが。
あと、本作品に登場する夫婦はみな仲が良く、原作とは異なり、結婚については一切テーマに踏み込まないことにしたようですが、そこは時間の縛りがある映画なので致し方ないですね。
それから、役所の年金受給者確認での老人すり替えを、コミカルなエピソードで未遂に終わらせたのは、犯罪を助長させないようにという配慮もあったのかな、と。
毒蝮三太夫に三谷幸喜というキャラ濃いめのメンツで強引にまとめた感がありました。
U-NEXT、dTVでも観られます。