ジェームズ・クラベル『将軍』

ジェームズ・クラベル『将軍』 評論

ジェームズ・クラベル将軍』1~4読了。
エミー賞受賞おめでとうございます、と言上はするものの、さすがにディズニープラスに加入してドラマを見る気までは起きなかったので、最近復刻した原作を読みました。
全4巻ですが、今(2024年9月26日)のところアマゾンレビューは第1巻での一つのみ。
ドラマを見る層と小説を読む層とは異なる、ということでしょうか?
もしくはドラマ自体話題にはなっているものの実は日本で見た人は少ないパターン?

自分も、全て読み終えるまで結構時間はかかったので、これだったらドラマを見たほうが速かったかな、なんてことは思ったものの、だからといってディズニープラスを契約してはいないわけで人のことは言えませんが…。

ちなみに本書は復刻版ですが、ドラマもリメイクということでした。
元となった三船敏郎バージョンの映画版のものは、存在だけは知っていました。
中学生の頃に我が家にもビデオデッキが導入され、レンタルビデオ屋に集中的に通った時期があったのですね。
あるとき時代劇映画でも借りてみるか、とその手のコーナーに立ち寄ったときのことです。
確か黒澤明監督の『』とこの『将軍』のパッケージを見比べて、結局前者を借りた記憶があります。
だって『将軍』はパッケージの絵も古臭かった…。

家に帰って『』を再生させていたら、横目で見ていた母親が「あーこれリア王ね」なんてことを言っていましたが、当時の自分にはまったくもってわかりませんでした。
いや、今もわかりませんけど…。

そんな感じで縁の薄かった本作に改めて出会いそして読破してみての感想は、異世界転生みたいな感じでウケたのかな?という月次なもの。
読み進めながらも、ドラマではここはどのように描かれているのだろうか、とかどれくらいアップデート()されているのか、といった関心が湧き上がる箇所は幾度となくありましたが、全編を通して「カトリック対プロテスタント対日本」という三つ巴の図式なので、どれか一つの価値観を推すような筆致にはならないのがうまいですね。
それがドラマでも再現されていたら良いのですが。
セブン・イヤーズ・イン・チベット』みたいに、チベット礼賛のようでいて実は西洋の価値観が伸してくるみたいな出来栄えになっていたら困りものです。
まあ、そういうのを真田さんが排除したから成功した、みたいなことになっているようですけれども。

一応本作の主人公はウィリアム・アダムスがモデルということで、プロテスタント目線が強めではありますが、同じ水先案内人ということで奇妙な友情を結ぶ敵国のカトリック教徒もいるし、細川ガラシャ的な武士の娘と恋に落ちるわけで、主人公ブラックソーンの価値観も大いに揺らぐ描写があります。
実際、最後は旗本に取り立てられますしね。

あと、本書を通して大航海時代のカトリック対プロテスタントの構図を意識することが出来ました。
お恥ずかしい話、自分の大航海時代の知識はというと、ほぼ光栄のゲームソフト「大航海時代」に依るものが大きいのですが、あのゲームでは宗教的要素はあんまり感じられなかったんですよね。
もちろん、キリスト教圏対イスラム教圏という大きな枠組みはありますが。
というか、だから大航海時代が始まったわけですけれども…。

あのゲームも、他船団を攻撃・略奪したりと海賊的にプレイすることはできるものの、やりすぎると船員たちが反乱を起こしたり、船団の他の船長が離反したりする程度には現実を反映してそうなモラルはありました。
それでも宗教としては、キリスト教対イスラム教というくくりでしかなかったように思えるので、今から思えば雑です。

でも、世界史の授業だって、陸路をオスマントルコに押さえられてしまったことから、海路に活路を見出したポルトガル・スペインによって大航海時代が始まった、という教科書の記述から数行の後には、もうスペインの無敵艦隊がイギリスに敗れる、みたいな感じで終わっていたし、シブサワ・コウさんを責めるわけにはいきません。

話がズレました。
将軍』の話でした。

本作はフィクションであることを強調するためもあってか登場人物は基本的に仮名なのですが、その仮名の付け方も主人公に近い人物になればなるほどひねりがあったり、そうかと思えば端役というかあまり重要でない人物は現実の姓をそのまま使っていたりして、その濃淡も面白いです。
秀吉が中村姓なのは尾張中村の出身だからかと思えば、明智・前田はそのまま使われていたりして。
でも、三浦按針は三浦按針なんですよね。
そこはそのままなのかい、と。
元の名は仮名なのに。

でも、本書の内容が弥助問題のように文句が出ないのは、フィクションとはいえ日本が黒人奴隷制度の始まりである、みたいな原罪擦り付けみたいなことは書かれていないからでしょう。
スペイン人の横暴さみたいなのは、イギリス人の目を通して思いきり書き連ねていますが。
まあ、大英帝国の悪辣さについては、その後の時代の話なので按針の目線では書かれていなくて時系列的にOKですしね。
著者はアイルランド系イギリス人とのことなので、そんなに中立な感情は無さそうですけれども。

真田さんがエミー賞の授賞式で東洋と西洋の融合、みたいなことを言っていましたが、原作たる本書においては、融合と言うよりはいずれも尊重してます、といった感じの一冊。

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