柴田哲孝『暗殺』読了。
話題の一冊。
無論、フィクションとして楽しませていただきました。
陰謀論にならないレベルの背景なのが素晴らしいです。
大きな陰謀論で語られることの多い巷の未解決事件も、あるとしたらこれくらいの怨恨なのかな、と感じられるくらいのさじ加減が上手いですよね。
もちろん風呂敷を広げすぎるとストーリーとして収拾がつかなくなるから、というのはあるでしょうけれども。
無論、動機が「令和」だったり「五輪」だったりするのはどうなのか、というのはあります。
でも、あの暗殺事件はそれくらいのことを持ち出すくらいでないと、わからないことだらけであるのも事実です。
何せまだ容疑者の裁判は始まってもいないのですから。
それがまた要らない憶測を呼ぶわけですけれども。
いきなり赤報隊事件から入るので、どこまで闇を見せられるのだろうかと訝しむ冒頭ですが、真犯人として統一教会の線を掘るために使っている程度で、赤報隊そのものを何か大きな陰謀の実体として描いているわけではないので安心です。
また、安倍さんの名は仮名ですが「田布施」という姓で、それ以上のことにはまったく触れないのですが、そこがかえって陰謀論大好きっ子にはたまらない設定ですね。
こんなことを言うと自分が陰謀論に詳しいみたいですが、知識としては厨二病時代のそれを超えてはいません。
昔、「日本史」の夏休みの課題で、東日流外三郡誌を題材にしたくらいには厨二病でした。(中2じゃないのに)
原稿を提出した際、その教師が「東日流」の部分を指さして、「これ、なんて読むんだ?」と言ったとき、自分の中の厨二病的自尊心はマックスに高まったのでした…。
話がズレました。
『暗殺』の話でした。
こんな調子で各方面に陰謀を広げそうであえて広げない感じの展開が続きます。
登場人物に、未解決事件の裏にある闇を闇として語らせていて、無理にそれらを繋げないまでも、こういう見方はできるよね、みたいな問いを読者に投げかけるのですが、終盤にかけてそれらを回収するのではなく、その闇に触れようとしたことで消される、みたいな展開にしているので、消化不良気味な結末になってしまうのは残念ポイント。
結局、石井継男とは何者であったのかわからずに終わりますが、なんというか著者もはっきり設定していなかったような気がします…。
というか、執筆中に考えていたものとは違う結末にした感もあるのですよね。
というわけで、どんでん返しみたいなものも結末でのカタルシスみたいなものも無いので、そういうものを求めるミステリーファンには向きませんが、現実を下敷きにして適度に妄想を膨らませた作品です。