アマゾンプライムで『マネー・ショート華麗なる大逆転』を視聴。
「マネー・ショート」という邦題がなんとも誤解をまねくというか、もうちょっとどうにならなかったのか、という気はしますが、ひょっとしてなかなか相場が崩れなくて、保険料の支払いで資金ショートしかねなかった主人公たちの様子から付けた題名かな?なんて。
まあ、それは勘ぐりすぎでしょうけど、サブプライムショック前夜からリーマンの破綻までがドキュメンタリータッチでテンポ良く進みますね。
あと、登場人物がカメラ目線でそのときの心情や背景を説明したりする手法を新鮮に感じたのですが、これって最近のトレンドなのでしょうか。
マイケル・ルイスの原作も読んでいますが、それよりもスピード感のある展開に感じるのは、2時間の映像に納めるべく端折っているところも多かったかな、と思います。
字幕や翻訳の問題ではなく、予備知識ゼロでこれを観てもあんまりわからずに終わっちゃうんじゃないかという気もします。
わからないからと言ってこの映画を何度も観るよりは、原作を一度読むことをお勧めしたいですね。
予備知識の勉強のために、ということであれば、リーマンが破綻したあの金融危機を題材にした本は結構あるので、この原作でなくても良いのですが、儲けた側の人間の話はやっぱり面白いというのはあります。
(『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』とかは気が滅入ります。)
ただ、この映画はそういう単純なストーリーにはしていないのですね。
いざ破綻により自身の利益が具現化する段になって、そのことに主人公たちが苦悩する様子が描かれています。
人々が職を失う、経済がぼろぼろになる、そういった未来に自分たちは賭けていたのだ、と。
原作を読んだのはかなり昔のことになるので記憶が曖昧になりつつあるとはいえ、原作には特段そこに拘泥する記述があった印象は無いんですよね。
映画ならではの演出でしょうか。
破綻に賭けてそのとおりになって儲かる、というのは、普通の人間からすると後味が良いものではない、というのはあるでしょう。
なので、それを前面に押し出したところで、映画として大衆ウケはよろしくないだろう、と。
この映画には鑑賞後の爽快感がない、カタルシスの解放がない、といったレビューもありましたが、それはそういう配慮がなされた演出だったからなのではないかな、と。
例えば、ジョン・ポールソンに破綻で儲けることへの葛藤みたいなところは、ほとんどなかったでしょう。
というか、そういう人間はこういうベットはしないのでしょうね。
『史上最大のボロ儲け』の表紙は、笑顔のジョン・ポールソンです・・・。
それにしても、もう十数年も経つのですね。
サブプライムというと思い出す銘柄が一つあります。
具体的な名前を出すのは、今でも守秘義務違反になると思うので、それは避けますが、海外のとある日曜大工用の工具メーカーです。
そこの2007年の第1四半期の決算が、異様に悪かった、というのがありました。
米国向けの売上の割合が多い企業でしたが、前年同期比で売上が半減とかそういうレベルじゃなかったかと記憶しています。
「アメリカは空前の住宅ブームでボロ屋でも日曜大工でバリューアップして高値で売り抜けるのが流行っている」という投資ストーリーでしたので、そのシナリオがめっちゃ崩れたという話なわけですね。
それなりにファンドでも保有している銘柄だったので、あわてて企業のIR担当者にコンタクトをとりました。
それまでに数回会ったことのある先だったこともあってか、すぐに電話会議を設定してくれました。
そこのIR担当者は、前職は証券会社のアナリストでした。
東京に来たときに会ったこともあり、また、彼女がその企業に転職してからも、自分が現地の会社の見学に赴いたこともあったりの関係でした。
実は、東京で会ったときの記憶は自分にはなくて、現地を訪問した時
「東京のロードショーで会ったことあるんだけど。覚えてる?○○証券のアナリストで。」
みたいなこと言われて
「お、おぉ。」
てなってたんですけどね・・・。
海外だと、証券会社のアナリストがIR担当とか財務担当になったりとか、その逆とか結構ありますよね。
で、そのときの電話会議での話、結局のところ、アメリカでの売上が急減速した、という以上の話は得られませんでした。
ただそれは、このメーカーだけの問題ではなく、どうやら業界全体の話らしい、と。
住宅の流通が滞り始めている、という様子は掴んだものの、まあ、そこで勝負を仕掛けるとかいう話にはならなかったですね。
当時の自分たちは、CDOだとかCDSだとかいうデリバティブを扱う部署でもなく、極めてオーソドックスに企業の業績を調べて株をロングするだけのファンドでしたので、とりあえずはその株を損切りして終わり。
アメリカの住宅関連もしばらく触らんでおこうな、で投資判断は終了。
2005年とか2006年とか、徐々に金利が上がる中で、それなりに住宅市場の過熱感も収まってきているんだな、という感想はありましたが、それが後にあんなことになるとは、という思いです。
それでも売上が半分になってます、とか言われたら異常事態が発生しているということくらいわかっただろ、というのは後知恵とはいえありますけれども。
パリバのクオンツファンドがイカれたという話が出たあたりから、足元が揺らいできていた印象はありましたが、それでも他方で上海市場では指数のP/Eが100倍とか、まだまだバブル感満載。
ベアスタが破綻したときも、「ほー」くらいのもの。
ベアスタからもらったクマのぬいぐるみを持っていたので、しばらく持ってたらヤフオクで高く売れるかな?なんてのんきなことを考えてました。
所詮対岸の火事ですよね。
本作品でも、破綻に賭ける主人公たちが、それが始まってからもMBS価格が下がらないことで慌てふためく様子が描かれています。
周りより一足早く気づいてベットを始めても成功するかどうかはわからなかったのですし、未来の読みと投資成果とは必ずしもマッチしません。
だからこそ、この作品の主人公たちだったり、ジョン・ポールソンだったりは尊敬に値するわけですし、最後に報われてよかったね、という話なのですが。