出口汪『国語が変わる』

出口汪『国語が変わる』 評論

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出口汪『国語が変わる』読了。
2016年出版の本ですね。
Kindle Unlimitedになっていたので読んでみました。

端的には大学入試が変わるので、どう対策をしたら良いか、というノウハウ本です。
大学入試が変わるのは、教育内容が変わるからで、それゆえの「国語が変わる」なわけですね。

ノウハウ本でありながら、なぜ大学入試が変わるのか、変わらないといけないのか、というところからの解説が入っていますが、そのあたりはよくある意識高い系のビジネス本にあるような内容です。
これからの時代に必要なスキルとして、クリティカルシンキング、ロジカルライティングあたりが挙げられています。
ただ、それらを子どものうちからどうやって身につけるか、身に付けさせるかの記述が参考になりました。
やはり教育者ですね。
というか、もはや大学受験のためだけの講師でなくなったのも、こういう教育をやりたかったからなのかな、と。
大学受験対策は、浪人生になってからだけでは遅いですからね、と。

抽象と具体のキャッチボールの訓練や、主語述語の抜き出しとか、すぐにでも我が子にも採用したくなるものが盛りだくさん。
ちょいちょい子どもへの教育に良いですよ、と自著『論理エンジン』がお勧めされますが、そこはご愛嬌。

大学入試が変わらないといけないことの理由として著者があげているのは、これまで散々言われてきたキャッチアップ型の経済モデルの行き詰まりです。
それから、教育産業からは試験を変えることへの反発が出るだろう、というようなことも言っていますが、そのあたりは話半分で良かったような気も。

本書の出版以降に我々が目にしたのは、英語での民間テストの導入で揉めたとか、それにより一旦見送りになったとか、更にそれによってそのための準備をしてきた進学校が反発したというような報道です。
そこから伺い知れるのは、教育産業の反発というよりは、むしろ変革に強かに対応をしようとしている姿だったり。

というより、著者の出口先生ご自身が、受験界に未来は無い、として東進を辞めているわけですよね。
受験にとどまらない教育のための会社を立ち上げたのではなかろうかな、と。
変化への対応を見せた教育産業の一員としての姿を、図らずも示せています。

もちろん大学教員の方々がTwitterなどで、記述式の採点がめんどい、とかつぶやいていたり、そういうレベルの反発は散見されました。
でも、生殺与奪権を文科省に握られている彼らが、抵抗勢力になるとも思えません。
学術会議の件だって、拳を振り上げてグダグダになった後、どうなったのか続報も聞きませんし。

というわけでトップダウンで大学入試が変わったのであれば、それをとりまく受験産業もそれに連れて変わるでしょうし、その前段階の高校入試・中学入試そのものも追々変わっていくのでしょう。
もちろん、その対策のための塾も変わらざるを得ないでしょうね、と。

巷間の議論としては、当時著者が抱いていたような、変革そのものへの反発というよりは、この変革によりこれまで以上に格差が固定化されるのではないかとか、そういった向きのものが多いような気がします。
でも、「マークシート選択式のペーパーテストならワンチャンあったかもしれない下流民の下剋上が、記述式になると~」みたいな議論も、ちょっと雑ですけどね。
それで良い大学に入ったとしても後々苦労するんじゃないかと・・・。

機会の平等が損なわれることへの懸念はともかく、国家が求める人材像が変化したことにより教育が変わるのであれば、結果として大学の入学試験の選抜方式が変わるのは致し方のないことだろうと思います。

あと、「日本の教育は江戸期の蘭学からキャッチアップ型だったからもう無意味。欧米のように子どものころからクリティカルシンキング・ロジカルライティングを身に着けさせないと。」といった議論も、図式としては良いのですが、現実を見るにちょっと雑ですよね。
アメリカの教育が良いのかって言われたら、それもどうかと。
だって、かんたんにQアノンですよ?
それで議会に突入しちゃう人まで出ちゃったわけで。
月刊ムー』の編集長が、「日本だったらQアノンみたいな単純な陰謀論はあそこまで広がらない。みんなムーでもっと高等な陰謀論に接してるから。」みたいなことを言っていたそうですが、批判的精神の獲得に必要なのは学びの場でのクリティカル・シンキングよりも、広範な情報に接しての免疫なのかもしれません。

出口汪本

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