大森健史『日本のシン富裕層』

大森健史『日本のシン富裕層』 評論

大森健史日本のシン富裕層』読了。

著者は国際証券の営業を経て現在は富裕層向けの海外移住コンサルを手掛けている方とのこと。
ここ数年、顧客層に変化が出てきた、ということでその傾向を分析した本、ということになります。
なので、副題の「なぜ彼らは一代で巨万の富を築けたのか」は、少しタイトル詐欺なところも。
こういう人が顧客に多い、ということであって、これをやれば富裕層になれる、というわけではないですからね。

とはいえ、顧客の行動パターンを冷徹に見定めているあたりは、証券会社勤め時代にカモ客を見つける目を相当に養ってこられたのかな、なんてことを思いました。

例えば、暗号資産バブルで富を手にした人の中には、「メンター」の言う通りにその暗号資産を買っただけで、売りも買いも本人の意志ではないので、守りに入る傾向が強い人も多いとか、投資家上がりの人は成功経験が崩れるまでは攻めの姿勢を続ける、とかですね。

暗号資産プレーヤーの典型例として紹介していた、地方都市のガソリンスタンド勤務のフリーターの20代男性について、ほとんどが詐欺案件である暗号資産投資だけれども、たまたま出会った案件が詐欺でなかっただけ、みたいなのは「言い方!」とは思いますが、否定はできないのでした。
そこまで極端でなくとも、都心のマンションの「自宅投資」で数年ごとに買い替えによる住み替えを続けたことで買換え特例の恩恵にも預かり一財産を築いた例などもありました。

それらを含め、アベノミクスによる金融緩和は、持たざる人間が成り上がる機会を提供してくれていたのだなと思います。
金融緩和はある意味平等でしたね。
ノッたかノらなかったかの違いだけで。

無論、2023年現在、金融緩和の局面はすでに終わり、アメリカに至っては引き締めもピークに入っていそうではありますが、それによって暗号資産も暴落したし、多分に「シン富裕層」の数も減ったようには思えます。
もしかしたら、それによって著者のビジネスの顧客も少し細っていたりなんかしてないでしょうか。
それゆえに顧客開拓の意味合いも含めての本書の執筆だとすると、本書の内容も字義通りに受け取れないところもあります。

まあ、それはそれとして、海外移住先として人気の国々の現在の状況を知るのには最適な一冊。

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