現代ビジネス編『日本の死角』

現代ビジネス編『日本の死角』 評論

現代ビジネス編『日本の死角』読了。

雑誌で話題になった記事のうち日本社会について書かれたものをまとめて一冊の本にしたもののようです。
執筆者もテーマも千差万別ですし内容も玉石混交。
そもそも、それぞれ十数ページなので分析が浅いといえば浅いのかもしれません。
でも、それぞれのトピックへのとっかかりとしては十分で、もう少し知りたいものに関しては各執筆者の著作を掘ってみるとかしてください、ということなのでしょう。

また、本書の出版こそ2023年ですが、当該の元記事が書かれたのはもっと前のものであることも多く、本書への収録時点でのその後のエピソードが各執筆者から補充されています。
惜しかったのは元記事が2017年の、深センを訪れた当時26歳の若者だったライター藤田祥平さんが圧倒的な経済成長を間近で見て圧倒されている章。(「日本が中国に完敗した今、26歳の私が全てのオッサンに言いたいこと」
書籍化にあたっての後日談も2023年なので意見としてはあまり変わっていません。
ですが、2024年の今だったらどんな感想になるのか、という点が非常に気になるのですね。

コロナ禍も明け、ようやく少しずつ中国国内の状況もつかめるようになり、政治も経済もどうやら相当に酷いことになっているらしい様子がちらほら耳に入ってくるようになりました。
GDP成長率や旅行者数の伸びなど、数字で表せるものはどうにでも調整できるのでしょうし、実際そうなのですが、久々に現地を訪れた人による街の活気のなさのレポートだとかは、どうにも隠し通せるものではありません。
あげく、若者の失業率が高止まったままで、公務員の人気が過去最高レベル、とかいうニュースを聞くと、我々もいつか通った道だなぁ、などと。

無論、一方の日本がバラ色だというつもりはありません。
それでもここに来ての半導体やAI関連での日本への投資についてのニュースフローだったり、より直接的には株価指数のリターンの彼我の差を見るにつけ、数十年単位でのリバーサルを感じざるを得ません。

結局のところ、一国の経済成長などというものは、このライターさんが数年前に嘆いたような個人の意識だとか世代論だとかはあまり関係なく、経済サイクルや地政学といったより大きな物語に回収されるものだったのかもしれません。
多少の虚しさはあっても、我々は必要以上にチャイナを意識しすぎてたんじゃね?感は否めない今日このごろではあります。

あと、赤川学さんの結婚事情についての分析(「家族はコスパが悪すぎる?結婚しない若者たち、結婚教の信者たち」)が目からウロコでした。
人々の結婚観としては上昇婚(男性の方が女性より学歴・収入が高い結婚)の傾向が残っているにも関わらず、男女平等が進んだので、高学歴女性と弱者男性が自分に見合ったペアを見つけられず売れ残りがち、という身も蓋もない話…。

しばらくXのTL上で話題となっていたザ・ノンフィクションの結婚紹介所の回を思い出しました。
(フジテレビの申立により、現在はもう画像は軒並み削除・凍結されたようです。)

中高一貫の男子校からおそらくはMARCHの理工学部を出たであろう恋愛経験ゼロだというチー牛男性が、紹介を受けた東大卒の女性に数ヶ月振り回された挙げ句、学歴の差で親に反対されるから結婚できない、という何やねんそれー、という一コマがあったのですね。
もちろん、本当に学歴差が理由で断られたのかどうかはわかりません。
それでも、それが理由の一つではあったとすると、その女性がこの先相手を見つけるのは難しかろうな、と。
一方のチー牛の彼は、どうしても高学歴な女性でないと嫌だとかいうのでもない限りは、これからいくらでも相手は見つけられるだろうな、と。
番組的にはそのチー牛男性の相手探しの困難さを強調する作りになっていましたが、少しばかり違う感想を持ったのでした。
まあ、本書で書かれていたことを潜在的に感じていたわけですね。

実際、自分自身の周りの女子を見ても、かつての同級生と結婚したケースがほとんど。
学生時代から付き合っていた同級生と無事ゴールインしたケースもあれば、学生時代は単なる友達だったけど、同窓会で久々に会ってからの交際スタートで結構短期間のうちに結婚まで漕ぎ着いたケースなんてのもあります。
中には結婚紹介所で同窓生を紹介されたなんていうケースもありますね。
友達の友達くらいのレベルではすでに知っている人であることもあるわけで、だったら結婚紹介所を使う必要もなかったんじゃ?という笑い話も。

あとは、結婚紹介所を通して相手が見つかったケースでも、相手は私学とはいえ医者だったりして、やはりこうしてみると上昇婚あるいは同類婚がほとんどですね。
若い頃はっちゃけていたとしても、いざ結婚となると無難なところに落ち着いている。
結婚すればそれなりに子どもは作っているケースがほとんどなので、カップルの数自体が増えれば子供の数も増えるのでしょう。

本書では出生率の増大は下降婚が増えるかどうかにかかっていると結論づけています。

そういえば会社づとめをしていた頃、中国本土出張時に香港のアナリスト(女性)がアテンドしてくれたことがあるのですが、最終日には子どもと旦那が合流してきました。
しばらく家族で楽しんだ後に香港に戻るとのことでした。
その旦那さんは何をしているのかを訊ねたら、子育てがメインで特に何をしているでもないそうで、まあ要するにヒモでした。
家事だってほとんどはフィリピンから来た住み込みのメイドさんがやっているわけだし。
でも、彼女が稼いでいるから家計としては問題ないのですね。
フルタイムで働く彼女をヒモ旦那が支えているという下降婚の極みでしたが、キャリアを極めたい女性にとってそれくらいがスタンダードになれば出生率も確かに上がりそうです。
逆に言うと、メイドがいるわけでも、子育てを担当してくれる旦那がいるわけでもないのに、フルタイムで働きながら複数人の子どもを育てあげるなんていうのは無理ゲーに近いです。

とまあ、種々の論点から身近な現象を再検討する機会も与えてくれる一冊。
興味のある章だけ読むのでも良いと思います。

日本の死角 (講談社現代新書) [ 現代ビジネス ]


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