櫻木みわ『コークスが燃えている』読了。
都会で派遣社員として生活する女性の生きづらさがこれでもかと綴られます。
派遣社員とは言ってもマスコミの校正の仕事ということで、さほど搾取されているとか人間扱いされていない、とかいう描写が続くわけではありません。
コロナ禍以降の2020年の話で、リモートワーク中心になっているということもあり、さほどオフィスでの細かい描写が無い、ということもあります。
とはいえ、雇い止めとなる日付が迫っている中での不安だとか、妊娠しても有休や保険といった制度からこぼれ落ちてしまう様とか、現在の仕組みが正規社員の夫とその妻を前提としているがゆえのもどかしさみたいなところが当事者の目線から語られます。
著者のプロフィールを見るに、本作品のどこまでがフィクションなのか気になりますね。
文中に旧友が実名で登場したりしていて、登場人物のモデルとなった数人とは、フェイスブックとかを開いたら、「友達の友達」くらいの距離感でいそうな感じです。
多分、学生時代の仲間との同窓会に参加すれば、主人公と同じような境遇の人は多数いて、同じような話を聞くことになるのかな、と考えながら読み進めました。
主人公の女性に対して、「恋愛に歳の差は関係ない」として交際を始めた相手男性ですが、結婚や子どもを持つというライフイベントを前になると、やはり逡巡が出てくるのですね。
親に言われてどうこうというのもあるでしょうが、自分の年齢とライフプランを第一に考えると、結局は年上女性は切らざるを得なくなるという悲しさ。
結局自分の都合しか考えていないのですが、それを隠すこと無く優しい言葉で語られるだけに余計に残酷さが増します。
子どもを生むという選択を考えると、人生の中で女性の側に与えられた時間というのはとてつもなく短いものだと感じます。
特に高学歴になればなるほど、学生結婚でもしない限りは、例えば修士まで進んだとしたら、修了後数年で決断をしないと、もう生むとしても「高齢出産」の域に入ってしまうわけです。
で、そのタイミングで付き合っている相手がいるかどうか、なおかつその相手も同じようにそこに向けて一緒に飛び込めるかどうか、となると、とてつもなく可能性は低くなってしまうな、と。
もはや無理ゲー。
では、上京せずに地方都市でのマイルドヤンキー的な生き方が良かったのか、というと一概にそうではないというのが橘玲『幸福の「資本」論』あたりに書かれていたことですね。
多分、主人公のような性格の人はマイヤンの世界は息が詰まるでしょう。
じゃあ、どうしたら良いのか、という話なのですが。
何かを選ぶということは、何かを諦めること。
そんな今更な単純な言葉を、噛み締めながら生きていくしか無いのかも知れません。