映画『夜のあぐら』

映画『夜のあぐら』 評論

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映画『夜のあぐら』視聴。

遺産を巡って争う家族の物語かと思いきや、実際に相続が発生するのは物語の終盤です。
それよりも複雑になってしまった家族が、相続に向けてもう一度まとまっていく様が本筋でした。

主演は井上真央ですが、それを固める脇役陣に唸らされます。
父役の岸部一徳さんは、まあそんなところだろうなですが、主人公の母で父の前妻の役が手塚理美
そして、不倫の末、後妻の座を勝ち取ったのが南果歩
狙ってるでしょ、という。

それに遺産(正確には父が死んでない時点では財産)を積極的に獲りにいこうとする主人公の姉役が尾野真千子
がめつく振る舞う様は『後妻業の女』でも見た絵面だぞ、と。

短編小説が原作とのことで、当て書きではないでしょうが、配役だけでニヤリとさせられますね。

元々テレビドラマとして作られたとのことで、脚本が細かく練れているというか、違和感をセリフで逐一回収していくスタイルです。
丁寧というかおせっかいというか、でも、こうしないと今のテレビは成立しないのかもな、と感じました。

例えば、終電を逃した弟が主人公の部屋に泊まることになるのですが、大晦日という設定だったので電車動いているだろ、と思っていたら、わざわざ除夜の鐘を鳴らす演出をしてから、
「あ、大晦日なら終日運転じゃん。」と言わせたり。

主人公が久々に実家に戻りピアノを弾くシーンでは、長年放置されていたはずなのに普通に音が出ていたのですが、最後に主人公から母に「ピアノ、調律されてたよ。」と言わせていたり。
これなんかは、父は娘の帰還をいつでも待っていた、という演出なのでしょうけれども、こうやってセリフに出して説明するのですね。

相続関連のやりとりは、少し正確性を欠くというか、登場人物の知識にあやういところがあるのですが、これはもしかしたら各人は法の素人だという設定のせいかもしれません。
父の新愛人が登場したことで、ますます相続がややこしくなると姉が嘆くのですが、愛人に相続権は無いですよね。

あと、終盤に父が亡くなった後のエピソードでは、父の新しい借金が見つかったので実家は差し押さえられることになった、というナレーションがあり、ここは違和感。
まず、借金が出てきたのなら、その分遺産が少なくなるのだから、相続税は安くなるはず。
まあ、死後すぐに全額を返さないといけない類の借金だったとか、そうでないにせよ、誰もその借金の存在に気づいていなくて返済をすっ飛ばしてしまい期限の利益を喪失した、とかかもしれませんけれども。
いずれにせよ、相続で差し押さえになるなんてのは、相続人同士で揉めて遺産分割協議書が一向に出来上がらないとか、そういうケースだけなんじゃないかという気が。

ビルやマンションも保有している、という設定だったし、最後の場面では相続人同士わだかまりも無さそうだったので、それだったら税理士を付けてもう少しうまくやれたはずじゃないかと。
のほほんとナレーションで「差し押さえになりました。」なんて言ってちゃだめだろ、なんて思ったのでした。
思い入れのある実家であったのなら尚更のこと。

まあ、物件ごとに相続人に割り振るという遺産分割のやり方も、まとまるようでいてまとまりにくいですからね。
評価額の違いだったり、収益を生む物件と生まない物件で各人の感じ方も違うし。

ともあれ、そのあたりは本作品の射程ではないということで。

U-NEXTでも観られます。

長嶋有作品

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