藤井薫『人事ガチャの秘密』読了。
著者はこれまでの社会人人生では、40年にわたり人事系の仕事をされてきた方です。
振り出しは電機メーカーの人事部とのことですが、その後コンサルや人材管理ソフトのベンダーを経て現在はパーソル傘下のシンクタンクの研究員とのこと。
パーソルならではの興味深い調査結果の数々に加えて、ご自身のビジネスで関わってきた事例での裏話的な話も散りばめながら、人事についてのあれこれの話が続きます。
少し目線が低い語り口である理由は、終盤の第7章でのQ&A集を読んでわかりました。
下は就職活動中の学生、上でも30歳代の中堅サラリーマンを読み手と想定しての執筆だったのですね。
サラリーマン人生もほぼ終わりに近い50代の人や、もう道筋がある程度決まってしまった40代の人に向けて書いたとしても、「そんなの知っとるわ」「もっと早く言ってよ」的な反応になるでしょうから、これは正解です。
ではロスジェネど真ん中の自分は本書を楽しめなかったのかというとそんなことはありません。
すでに自分はサラリーマンを辞めて10年以上経っているわけですが、本書の端々で見られる各企業の人事部の姿勢からは、今や典型的な日本企業での風景も、少しずつ変わっていっているのかな、という気がします。
自分が現役のころには「タレントマネジメント」なんていう言葉は聞かなかったし、「人財」なんていう言葉を使う会社はたいていブラックというのが暗黙の了解でした。
でも今日では、少なくともマクロ的には日本が労働力不足であること、若者は貴重資源であることは認識されているのですね。
我々の新人時代のように「お前の代わりなどどこにでもいる」的な扱いを受けることは少なそうです。
今年の春闘を見る限り徐々に労働者の賃金も上がり始めているようですし好ましいことこの上ありません。
人事は必ずしも人事部が決めているわけではないとか、管理職になれなかっただけの人材を専門職と呼ぶのはどうなのかとか、平均的なパフォーマンスの人間は意外と捨て置かれるとか、まあそうですよね、という「人事あるある」を組織論やデータで示しているので、ある程度の規模の日本企業に属した人なら面白く読めると思います。
逆にベンチャー企業とか、本国での規模はともかく日本法人は小さい外資企業とか、個人商店的な零細企業とか、そういうところのサラリーマンには本書の面白さは伝わらないかな、と。
本書の裏の主旨は、長年人事に携わってきた著者による「日本企業の人事の人はガチャを起こさないようにがんばってますよ」というものなので、矛盾するようですが本当に「ガチャ」が発生するような企業は説明対象から除いて考えないといけないのです。
ツイッターに生息するような陰湿なJTC社員ではない、比較的健全でこれからを考える余地のある日本のサラリーマンにおすすめの一冊。